【VTuber小説】01『あの世行って来た』後編

VTuber



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【VTuber小説】01『あの世行って来た』後編

✔ 「何万人か把握してるね?」

「……786万。昨日の時点で」

「そう。細かい数字までちゃんと知ってるね、毎日チェックしてらっしゃるから。」

あのね、と窮屈そうな椅子に座り直して両手を組む。

「トップが786万の事務所で62万ていうのは頑張ってる数字じゃないの。──分かる?諦めてる数字なの」

……──ちぃ!あんた諦めてんだよ!諦めちゃってる!

「あなたより後にデビューした後輩達も軒並み300万は超えてるでしょ。その子達より3年も4年も長くやってるあなたが62万。どう考えても計算が合わない。逃げてるとしか思えない。──事務所で下から三番目ですよ」

──思い出しなよ!デビューした時のやる気!信条に負けたくないって言ってたあの時の事をサァ!

「しかも下の二人は今年デビューした子達っていう……実際最近の動きも酷いもんですよ。配信もショートも全然回ってないし……ASMRが1万回らないってどういう事ですかあなた。ショートだって…」

「声がだめなんで」

「何?」

「自分声が事務所一だめなんで。回らないのも当然かと」

「声がだめならなんでASMRやったの」

「……気分で」

「気分」

「アクホキめてたし」

「薬をね」

「そう。リミッター外れて。たまにはやるかってなって」

萎えに萎えてどうでも良くなって、暇潰しに自分の手を見ようと視線を落としたら手がなかった。脚も。──あたしも人魂だった。後ろに並んでる奴らと全く同じデザイン、二コマ分の動きでぴこぴこゆらめく。

──つかVTuber絶対観てるよねこのおっさん。

「じゃあこの《ショタ狩り鎮魂歌レクイエム》の歌みた出したのも気分か」

「……」

「いい曲だよねぇぐいママのショタ狩り鎮魂歌。ちょっと恐いぐらいバズってるしねぇ」

「…まあ、はぁ」

「でもあなたの声で歌うとガチの性犯罪者の歌になっちゃう。めちゃくちゃ恐く仕上がってるけどこれも気分でやった?」

──ちぃ!あんた考えな!才能とか関係ない!考えない奴は負けるんだよ!

「でも後輩はいいって言ってくれたし。面白いって」

「後輩っていうのは例えば」

「……ザラメとか」

「6期の?」

「そう。砂鳴すななきザラメちゃん」

「あなたこの前ざーちゃんの400万人記念凸待ち行ったでしょ」

──ざーちゃん

「ざーちゃんの第一声覚えてます?《ごめんなさい》だったよ?続けて《ごめんなさい、なんか本当に……》から《こんな時間に来てくださって》に軌道修正してたよ」

──何。それの何が悪い

「だめでしょうあなた7年目の62万人が1年目の400万人の記念凸待ちにトップバッターで行ったら。配信冷えちゃってたよ?」

「……」

「ねぇ」

「……?」

「配信が……w冷えちゃってたってww」

「はぁ……は?」

「……知らない?あれの元ネタあなただよ」

何言ってるのか全然分からない。

何なのこいつ。何で最初VTuber知らないフリしてたの?──何の時間なのこれ

「でも好きなんで、ザラメの事は」

「嫌いだよ?」

手元の帳簿に目を落としたまま閻魔が言う。

「……」

「向こうはあなたの事嫌いです。素行が悪いから」

──うん知ってる。どんだけ押しても全然懐いてくれなかったものな

 社員のババアと同じような事を言うおっさんの小言は途中からあまり耳に入って来ていなくて、代わりにこれから行く地獄の事を考えていた。だいぶ深い所って言ってたけどどんな場所なのか──昔読んだ絵本の通りだとしたら滅茶苦茶痛くて苦しくて、それに多分熱い所だけど鳥山式だとしたらさっきの完全体の人とか白い小坊主みたいな人に近寄らずに隅っこの方にいれば案外平穏に暮らせるのかも……白い人ってまだ地獄に居たんだっけ。どうだっけ。

 バカみたいな話だけど、ネットが繋がってるのかどうかが気になって仕方がなかった。おっさんの言う事なんか聞いてもないんだけど、もちろん効いてもいないのだけれど、あまりにバカにされるもんだからイライラだけは結構していて───配信がしたくて仕方がなかった。ここ何年かはモヤっとしたらとにかくアクホを噛んでキメチョークだったけど、今はとにかく配信がしたい。──ここから配信するとしたらそれは一体どこの誰のところに届くのか……

「極め付けはこの設定ね。──ヘル・エルフと人間とのハーフ・クォーターって。こればっかりは本当に意味が分からない」

──驚いた。まだ喋ってやがる。

あんた向いてるよ、配信者に。

「うちも地獄やってますけどちょっとこのヘル・エルフっていうのは聞いた事ないですよ。鬼塚、お前知ってる?」

後ろの青いメガネを振り返る。

「ダークエルフじゃダメだったのかねぇ」

「……あの」

「しかもハーフ・クォーターってどっちなのっていう……ピザなのかな?ピザが二枚そこにある状態なの、カナ!?」

「あの」

「……あ、はい。どうぞ」

「もう大丈夫なので処理しちゃって下さい。地獄でも何でも」

「あ、もう大丈夫?」

「はい、もう意味ないと思うので」

「あ、そう……ごめんなさいね長々と」

「いえ」

「じゃあ、もういいですよ帰っても」

「はい……はい!?」

「帰っても良いですよって。そこの左側の通路から現世に通じてるから」


✔ 要は法整備が整っていないという話だった。極めて悪質な合法詐欺集団であるVTuberという種族をどう処理すべきか決め切らないまま最初の死者を迎えてしまった、だから今は帰って貰うしかないんです、と。

「私が最初の死者ですか。VTuberの中では」

「そうだね。YouTuberはもう結構来ているんだけども」

「でもそれだとさっきの地獄云々とか罪がどうとかって話はどうなるんでしょう。帳消しですか?」

風向きが変わらないうちに退散すべきなのは重々承知だった。

うーん、まぁと人を食ったように閻魔は笑う

「十分地獄みたいなもんでしょ、あなたの活動って」

──失礼な

「だから変な事してた訳でしょ。首絞めたり薬……アクセルホッパーっていうのかな?ああいうの使ったりして」

全部地獄みたいに辛かったからやってた訳でしょと言われてもピンと来はしなかったけど、涙だけは止まらなかった。地獄から逃げおおせる安堵からかしこたまなじられた悔しさからなのかは分からないけど、涙だけは。──まあ私、人魂なんですけども。

「その地獄を生きて先にいくらか罪を償っておいて下さい。その間こちらも法整備を進めておくので。さっきあなたのちょっと前にここに来た人も言ってましたから、《死ぬこと以外はかすり傷》って。──まあ死んでんのに何言ってんだって邪淫系の地獄に突っ込んどいたんですけどね。いけ好かないヤローだったなぁ──ま、そのくらいの意気で頑張って少しでも徳を積んでください」

VTuberの死後の処遇は業界全体が積んだ徳によっても大きく左右されるとの事だった。引き籠りに希望を与えればプラス1点、ショタ狩り鎮魂歌みたいに世間を賑わせるコンテンツを作れば10点、長く続いて正当な文化として認められれば1000点、といった形で。

気が緩んだのかでは特に無ければこれで、という閻魔の言葉を遮って一つバカな質問を投げかけてみた。

「あの」

「──はい?」

「人造人間に、魂は宿るんでしょうか」

「……なんですか?」

「人造人間。さっきいたから、有名なのが」

困惑した閻魔が鬼塚の方を振り返る。

「Vでも送り返されるのに人造人間は普通に地獄に入れるって面白いなって、なんか」

「……あぁ、ああ。セルの事言ってる?」

そう!!それ。

「いやぁ、人工物は例え自我があっても今の所廃棄処分なんです。だから死んだらそこで終わりというか。お宅のめそめそとかさけめちゃんも仲良くしてるところ申し訳ないんだけどもそういう感じで……」

「え、でもさっきあっちで声がして」

────!!そういう事か。……帰ったらニュース見よ



✔ 「現世に戻ったらあなたの脳はここでの体験を全て夢として処理します。クローゼットのポールが折れて助かる形にしますので、破片で怪我などしないようにだけお気を付けください」

「はい、はい」

現世に通じる通路を先導しながら、鬼塚が生き返る上での注意事項を説明する。

「首を絞める・絞めない等はご自由なのですが飼ってらっしゃる猫ちゃん──レクターくん?でしたっけ──だけは外に出られるようにしておいて下さい。動物を殺すと罪が大きく加算されますので」

「はい。──自殺は大丈夫なのに笑」

生きて帰れると分かってから配信がしたくて仕方がなかった。全然絡んでこなかった4期以下の全員と一通りコラボしてみたかったし、長い事逃げてたホラゲもみんながやってたやつは全部やりたかったし、気が触れたかのような長時間配信もしてみたかった。──やり様によっては、ASMRも。

「まあ病気なので、日本人の自殺は」

「病気」

「ええ、さすがに病気を罪として裁いてたらキリがないよねって話で」

そう言えばコラボもちゃんとしたのは随分してなかった。ASMRはさけめがずっと一緒にやろうよって言ってくれてたし、雨倉もずっとパブ誘ってくれてたのに逃げてばっかりで……代わりに何をするかと言えば薬キメて首絞めての繰り返し。──確かに病気だな。裁くべきではないって言うより、裁く価値もない病気。──裁く価値もない程に、人を貶めてしまう病気。

───なんだっけ、さっき。閻魔が何か言ってたような

『ガチャリ』

「どうぞ、お通り下さい」

なんだっけ、セルの話をしてて──

「黒木さん」

「は、はい」

家具屋で見本として置かれているようなドアしかないドア、それも全面がピンクで塗装されたドアを鬼塚が開けたまま待機している。

「お通り下さい」

「はい、すいませんなんか」

「いえ」

「………」

………──やっぱ気になる

「……すみませんさっき、あの、閻魔大王様が…」

「よき地獄を」

「……はい?」

「よき地獄を。徳をお積みに」

鬼塚があたしの背中を突き飛ばした。


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