【ホロライブレビュー.03】D-12《宝鐘のいないホロライブで.①》include:大空スバル、宝鐘マリン、兎田ぺこら、潤羽るしあ

VTuber


【①.ライバーの成功は箱の力に起因する】

【➁.箱から人が消えて箱の力が低下した時、無関係でいられる所属ライバーはいない】

【③.だから「合う・合わない」だけで同僚との人付き合いを考える大空はアホ】

【④.ライバーが箱を離れる事の真の意味とは】

【⑤.潤羽るしあは「脱退」ではなく「死亡退場」】




反対側の強い人

✔ ライバーの強さは事務所の強さに単純比例する。可愛くもなければ面白くもないライバーでもホロライブに所属すればチャンネル登録者数100万人以上は約束され、業界最多のチャンネル登録者数を保持する三人のライバーは全員ホロライブ所属、事務所が大きく儲かっているから所属ライバーの収入も他の箱より多く、美麗なモデルを頻繁に刷新して記念日には豪勢な3Dライブも実費で行える。収入が多く会社が盤石という事はライバー達が活動に入れる熱も段違いに高まるという事だ。この程度の収益だと副業を考えるべきか、会社はこの先大丈夫なんだろうか、見て貰えているうちに辞めて個人勢としてやり直した方がいいんじゃないか、ホロライブに所属していてそんな事を考えるライバーはさすがに居ないだろう。

ライバーの中の人の個性と才能を余すところなく生かして事務所の力へと昇華する事も質の良い箱の中でしか出来ない。地味で積極性に欠けるライバーの、リスナー側からは見えない魅力を誰かが雑談のエピソードとして話す事で拡散し、勢いを失ったオワコン大御所ライバーに後輩が呼びかけを行い再活性化させ、トーク力もギャグセンスもないライバーが同僚との人間関係を付加価値として帯びる事で台頭していく。声が駄目でネット文化にも暗い大空がホロライブで有数の大型ライバーになれたのもやはり同僚との関係性のお陰だし、活動歴五年を迎えようかという今になってもモチベが尽きないのは安心安全で仲間に囲まれ、心地良い職場環境に身を置けているからだ。

またホロライブに所属している間にスパチャ総額で世界一位・二位に輝いた二人の大型ライバーは事務所を離れた今片や成績不振・片やほぼ廃業で見る影もない。二人がホロライブを去らなかった世界線を想像した事のないホロメン・ホロリスは居ないだろう。その世界線で二人はきっと今とは全く違う活動に勤しんでいた筈だ。

大空がライバーとして今より上を志すならやるべき事は箱の強化以外にない。五年近く活動してきて今の形態で出来る事はほぼやり尽くしてしまった、どんなに視野が狭くてもそれには薄々勘付いている筈で、それは大空と共にホロライブの上位五本指に入る宝鐘やさくらみこ等も同じ事だ。

ダンスや歌の腕を磨く事でそれが評価されてライバーとして次の段階へ進む事が出来るだろうか。英語でENや海外ニキと円滑なコミュニケーションが取れるようになった時にそれは叶うだろうか。そろそろ加入するであろう7期生の何人かと仲良くなって友達を増やしたら何か革命が起きるだろうか。

大空がここ数年自発的にやっている努力は全て趣味や戯れの類でしかない。いくつ積み重ねても次の段階へ自分を進ませてくれる事は決してない自己満足の集合体。そもそもそれらの習得に踏み出した動機自体変わり映えしない、変わる予感も一切感じない自分の活動に変化を付ける為、変わっている、前に進んでいると自分を納得させる為。それが叶わない事にもそろそろ慣れ、疑問を感じる気持ちも麻痺し始めている頃ではないだろうか。

2018年デビューの古株V達は、本質的に皆終わっている。毎月まとまった額の収益をもたらしてくれるチャンネルの保全とモチベの切れを隠してポーズを取り繕う事に活動の全てを費やしている。新しい展開と成長幅の減退に困っているのは大空も同じだが、大空が彼らと違うのは今でも活動へのモチベーションとエネルギーが尽きない事だ。それは本来事務所を強化して外との繋がりを強め、同僚を連れてさらに上のステージへと進む為に使う筈の物だった。言うに事欠いてダンスや歌のような個人技の習得、そしてお友達ごっこに転用するとは聞いて呆れる。

去年延々と一人でヘラっていた宝鐘が事務所を辞める事を考えていた事を大空は知っているだろうか。宝鐘は飛び抜けているが故に誰とも今一つ距離を詰め切れず、それに伴う正体不明のフラストレーションに苛まれていたのだ。一つは大空を筆頭とした他のホロメン達から薄っすらと敬遠されていた事による孤独感、もう一つは、恐らく宝鐘も気付いていない事だが同じパターンを繰り返して成長や前進を感じられない日々の活動についてだ。長年活動してもこの仕事へのモチベーションが尽きない事と、この業界に骨を埋める覚悟でいるのは宝鐘も大空と同じだが、宝鐘は大空のような単純バカではないし視野ももっと広いので習い事のような些事で自分自身を騙せない。何か新しい手を打って活動に新機軸を打ち出さねばならない事は分かるのに同僚は皆自分を避けていて協力者は居ない、事務所の中でやれる事は全部やり尽くした、それならいっそ外に出て自分一人で…と考えるのは自然な流れだ。

そして事務所の外にはすでに辞めた二人の凄腕ライバーが待っている。ホロライブ脱退後うだつの上がらなかった二人を宝鐘が率いる形で新しい事務所を設立した場合、その箱は大いに成功する可能性を孕む。宝鐘の新モデルが「社長」なのは何故だろうか。海賊→社長とは近いようで遠い、別に何もかかっていない随分な飛躍だと思うが、その原案を製作者に提出した時期に宝鐘の胸の内を占めていた想いとは何だったのか。

今年に入ってから同僚達との関係は改善したようで宝鐘は元気を取り戻しているようだが、実際宝鐘が事務所を脱退していた場合どれ程ホロライブの未来と、それと一蓮托生である自分の未来が閉ざされていたか大空は考えもしない。先に挙げたようにDQN系ホロメンの真価を引き出して外にさえ拡散出来るのは宝鐘しか居ないし、事務所の外の同じ類のライバーと繋ぎを取れるのも宝鐘だけ、大空に出来ない事を100%以上の精度でこなせる人物が味方陣営から外れる事の恐怖を大空は分かっていない。だから合わなければ合わない、ウザければウザいと感情100%で宝鐘を突き離す事が出来る。

ライバーの力は事務所の力に単純比例する。宝鐘を失う事は桐生や潤羽の時とは全く違ったレベルで事務所の戦力を削いでしまう。ホロライブが弱体化して将来性を失えばそれはそのまま大空自身に反映される。そうして出来た穴は歌やダンスや英会話、絡み易さだけで集めたお友達連中などでは決して埋められない。


兎田ぺこらと潤羽るしあ

✔ 3:04~ 一緒にプレイしていたゲームの中で宝鐘が死んだ事にかけて「3期生ももう残り3人、これ以上失いたくない」と潤羽の脱退にかけたブラックジョークをぶっ込む兎田。「ぺこーらの代わりに死ねて本望ぺこだろ」とか「海賊らしく海で死ねてよかったな」等もっとストレートなボケ方がいくらでもある中3期生が欠けてしまっている現状に無理矢理繋げる意味深な場面。兎田をしばらく見ていれば分かる事だがこれはジョークと言うよりホロライブ、若しくは潤羽が居ない現実に対する当て付けの皮肉、嫌味みたいな物だ。

それに応える形で宝鐘が言う「じゃあぺこらも一緒に辞めてくれるか、抜けてくれるか」という言葉もまた意味深。宝鐘はこの配信があった2022年の後半メンタル面で本当に調子が悪く、活動も極めて低浮上だった。「明言は出来ないけど2022年は辛い事があってヘラっていた」と今でもよく言うがこの「辛い事」は潤羽の脱退で確定だろう。潤羽程大事な同期が切られてしまったこの場所に居る事に果たして意味はあるのか、もういっその事皆で一緒に辞めないか。2022年一杯、裏ではもしかするとそんな会話が交わされていたのかも知れない。


✔ 潤羽の脱退以前に製作された、ホロライブが題材のゲームをプレイする兎田。潤羽を象徴する痕跡を見つけ「ここに居たんだね」とまた意味深な発言。3期を含めた他のホロメンが同じ場面に遭遇した場合普通無言でスルーか「懐かしい」「見覚えのある物があるな」等と無難なコメントを残すに留まるところだろう。

「ここに居たんだね」は裏返すと「どこに行ったんだろう」「なんで居ないんだろう」になる。ちょっとした切っ掛けでここに居たんだね、と口を衝いてしまう兎田の胸中が常日頃「るーちゃんが居ない」という喪失感に強く支配されている事が窺える。あっさりとして何気ないように見えて、なかなかに重いワンシーンだ。


✔ 3:25~ 2022年8月、チャンネル登録者数200万人を達成した時の記念配信。冗談めかしてチクチクと潤羽の件に触れていた兎田の本音がこれだ。

兎田にとって潤羽は平等に仲の良い四人の同期生の、そのうちの一人に過ぎない。ホロメンの中ではどちらかと言えば同僚と距離を取りたがる兎田でも同期がたった一人抜けただけでここまでガタつき、長期に渡って引き摺ってしまう。宝鐘は兎田よりさらに受けたダメージを分かり易く表現していたし、恐らくそのせいで一年間ヘラり通しだった訳だが、これだけ動揺した二人が裏で「辞める?」という会話をしていない事の方が不自然ではないだろうか。


✔ 2:03~ 2022年末頃、潤羽の脱退後プライベートで会った事は無い旨を公言する兎田。辞めた後会いもしないならそんなに思い入れも無かったんじゃないのとなりそうだがそれは違う。兎田にとって大事なのはホロライブ所属で同期の潤羽るしあで、みけねこではない。

箱所属のライバーが箱を離れるという事は名やモデルを奪われるという事以上に、もっと本質的な部分からその存在の意味合いを変えてしまう。ホロライブのお上品な気風に沿うよう努めるも、感情が振り切れると本来の乱暴な口調を露呈してしまう極端過ぎるギャップだったり、同僚に過剰なダル絡みを働き振り回す独特な立ち回りだったり、3期に混ざるとポンコツ過ぎる末の妹のような立ち位置になる事だったり、潤羽るしあの事を考えると誰しもそんな特徴がいの一番に思い浮かぶ筈だが、これらは全て潤羽が「ホロライブに」「3期生として所属して」「同期を始めとしたこれ以上望めない程の同僚達に恵まれ」「同僚と一丸となって精力的に活動していた」からこそ生み出された潤羽を構成する要素で、ホロライブを脱退してその全てを失ってしまった潤羽はもう誰にとっても潤羽るしあと呼べるものではなくなってしまった。それは不定期に行われるみけねこの配信を実際に観に行っても分かる。潤羽を知っているリスナーであればある程「るしあじゃないな」という所感を強く抱く事になるだろう。

デビュー以来仕事が生活の全てになった兎田にとって、ホロライブの中で交わされる関わりこそが人間関係の全てだ。本物の家族のように半ば強制的に同じ箱、同じ期生の枠に押し込まれ、だからこそ活動の苦楽と裏表を共有出来た潤羽の事が大事だった訳だが、それが解かれた今兎田は潤羽に何の用も無いだろう。「るーちゃん、ここに居たんだね」という言葉がそれを物語っている。潤羽は今も東京に居て、会おうと思えばいつでも会える場所にいる。それでも兎田にとって潤羽はもうどこにも居ないのだ。少し前まで確かに居たのに今はどこにも居ない、どんなに求めても会えない。そういう状態を総じて「死」という。兎田の認識の通り、潤羽るしあは一年前の丁度今頃ホロライブを離れると同時に確かに息を引き取り、永久の眠りに就いている。

死んだ潤羽を生き返らせる方法がたった一つだけあって、それは兎田や宝鐘が一緒にホロライブを脱退して潤羽と組み、起業してVTuber事務所を興しもう一度同期の同僚として活動をゼロからやり直すという物だ。潤羽の脱退で大きくダメージを受けた二人がこれを検討していない訳がない。宝鐘にとってはホロライブという大事務所ですら手狭で窮屈だし、兎田は将来性がないので売れているうちに起業して会社を持っておくのがベストの選択だ。今はまだ時期尚早だが折を見ていつか必ず、という会話が宝鐘と兎田の間であっても何の不思議もない。


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