
男の声は、心なしか少し震えていた。
「え、ええと」「まだ分からないですけど、やってみないことには」「でも何度か繰り返した作業ではあります………」
「本当ですか」
「えぇ。長い間誰にも使用されず詳細が欠けてしまった鬼道を過去の知識とリンクさせ、復元させていくんです」「要は当て推量ですけど、私個人成功例もいくつかあります」
「お願いして、いいですか」
やっぱり少し震えている。
「え、えぇ。では早速」
えーと…………
まずは正しい歌詞と、メロディラインを思い出さないことには
「どう?」
えーと、〝BIBBIDI BOBBIDI〟って言うよりなんかこう、〝ビビデ!!バビデ!!〟みたいな感じなんだよなぁ…………
「ね、どう?」
〝ビビデ!!バビデ!!ブーワ!!〟〝ビビデ!!バビデ!!ブーワ!!〟〝Yeah~…………〟
……………………違うなぁ、なんか。そもそも聴いたのが昔過ぎてメロディが思い出せない。
「歌おうか?〝びびでつばびでつ〟」
「ちょっとうるさい」
「いやいやいやでもさァ」
「今元の歌を思い出してるんです。始まらないでしょう、それが無ければ」
「でもでもでもでもさァ」
「聴いたのが昔過ぎて歌詞はともかくメロディが曖昧なんです。集中させて下さい、思い出そうと必死なんですから」
「でもさ、」「なんかさせてよ」
「無いです、出来ることなんて」
「でもでもでもでもさァ~、」「24年も待ったんだぜ?こちとらぁ」「なんかさせてよォ」
「無いです、黙って集中させて下さい」「それが今あなたに出来る一番の〝出来る事〟です」
「えェ~、、、、、、、」
「えェ~じゃない!出来たら呼びますからどこか他所へでも」
24年?
「………………24年?」
「うん?」
「〝24年〟ってなんですか?」
「いやだから、」「先代から〝びびでつばびでつ〟を教わってから〝24年〟」「こっちはずっと〝秘匿鬼祇術〟の発動を見てないのよ」「そりゃじっとしてらんないっつぅのよォ~」
………………………ん?
………………………え?
………………………うぅっわぁ………
「じゃ、じゃあ24年前にあれを教わってからずっと?」
「うん?」
「24年かけて20人以上にあれを教えてきたんですか?」
「うん、そう」「それが俺の仕事だもん」
うぅっわぁ………
「え、じゃ、じゃあそれ以外に24年間で何かした事って」
「ないよ?」
OH MY GOD…….
「たまに外にも出るけど、〝秘匿鬼祇術〟を後世に伝えるのが俺の役目で、人生だから」「だからそれ以外は何にもしてないよ」
信じられない…………
私にはとっても考えられない人生
「ここもそのためにある施設だし」
うん、それなんだよなぁ。
〝この人自体〟と〝この人のやってきた事〟だけは本当にしょうもないものなんだけど、〝この(広大な「Void-Carbonate」製の鬼道演舞場含む)巨大で豪勢な地下施設〟だけが「五龍転滅や黒棺を上回る秘術の在り処」の条件と合致している。──────そこへきて今では誰も知り様がないあの古代の楽曲との符合…………………これは本当にひょっとすればひょっとするのかも。
「で、どうなの?」
「うーん………」「古い記憶なのでやっぱり曖昧ですね。詳細が全く思い出せない」「何か切っ掛けの一つでもあれば………」
「なんて人なの?その歌い手」
「この曲のですか?」
「そうそう」
「覚えてないですねぇ…………と言うか、多分記録自体残っていないと思います」
「〝犬猿の仲の人〟も?」
「えぇ、そっちは多分もっと無名な人だった筈なので」
「…………あ!!」「あれじゃん」
「?」
「公営で調べればいいんじゃん」
…………………だから残ってないんだって、記録自体が。
まぁいいわ。一人になって集中したかったとこだし。
「わ、分かりました。じゃあそれでお願いします」「どっかあっちの、ドリンクバーにでも座って………………」
「合点!!」「それでは我が秘蔵の具々右流具流具右流」「ご照覧あれ~!!!!」
右手の中指・人差し指を揃えてこめかみに当て、検索エンジンを広々と空中に投影する。
「いやいや、あの。ドリンクバーでって……………」「古っる。」
投影された検索エンジンは何世代も前のもので、アップデートが全く行われていなかった。
「これ…………」「まともに機能するんですか」
「しますよ、失礼な」
「右上見て下さい」
「何」
「〝このバージョンはサポートされてません〟って出てますよ」
「っかァ」「てやんでぃ」
言いながら検索欄に〝2020年代 歌い手 ビビデバビデブー〟と打ち込む。
「男?女?その人」
「女です」
「じゃあ女…………っと。それからインツァー・」
「インター」
「あぁ、はいはいインター・」「ネッツ」
「ネット」
「あぁ」
「インターネット・ミュージックです」
「分かりましたよ」
必要な検索ワードを全て打ち込み検索ボタンを念押する。
「はい、ご照覧あれェ~!!!!」
「………………………」
表示された一覧は、やっぱりどう見ても的外れなものばかりだった。数千年も前の事なので当然と言えば当然だけど…………………そのほとんどが〝Ado〟に関するページで埋め尽くされていた。
「あぁ、Adoじゃん。」
「えぇ、まあそうなるでしょうね。2020年代と言えば彼女ですから」
「Adoは僕も知ってますよ。この時代の人?」
「ですね」
「Adoの曲ですか?〝びびでつばびでつ〟は」
「いえ、私もAdoはよく知ってますけど声が全然違います」
「そっかぁ」「……………他はどうです?」「〝ikura〟とか〝yama〟?とかありますけど」
〝ikura〟は何か見覚えがある
「うーん、何とも」「映像か音声データは残ってますか」
「………………ない、ですね」
「じゃあ分からないですね」
「じゃあー〝ホロライブ〟は?」
「人の名前じゃないでしょう」
「あぁそうか」「じゃぁー…………〝アイナ・ジ〟」「…………何だ?読めない」
翻訳機能が正常に動作していなくて古代語が訳されきれていない。バージョンが古いから……
「何だ、黄色……………」「黄色……………ナントカ会?」「古代の漢字は難しい……………」
難しくはないよ、緑黄色社会だよ。普通に現代漢字で翻訳機能無しでも読めるやつだよ。
「それも人の名前ではないですね」
「〝ビビデバ〟?」「っていうのもあります」
「………………うーん」
やっぱり埒が明かないな。そもそも当時のマイナーデータが公営羅波にそんなポロポロ残ってるわけが無いんだ
「凄いなぁーなんか」「1.5億回再生突破?ですって」「凄いんですかね?当時としては」
「どうでしょう。当時地上は人口過密もいいところでしたからね」
「〝武道館〟?」「でライブしたんですって、なんか〝逆境をはねのけて〟?」「何ですか、〝武道館〟って」
「さぁ、知りません」
「もっと熱意持っていきましょうよ!!」
「いや、だから」「無理なんですよ公営羅波じゃ。選別された僅かな情報しか載ってないから」「調べて何とかするんだったら〝帝政文化博物館〟の正史保管庫クラスじゃないと…………」
やっぱ実家帰るしかないのかぁ………
嫌過ぎるゥ…………
「えぇー…………帰っちゃうのぉ?/////」
「キモいなぁ」
「何とかなりますって公営羅波でも!」
「なんないって」
「しましょうよ!何とか!」
「無理だっつの」
「マ!ジ!で!発動させたいんですよ、僕は!」
「……………………」
「先代・先々代込々で900年以上待ってるんですよ!こっちは!僕だけに限っても24年!」「これはやんなきゃでしょう!」
うん。
それに関してはもうとっくに分かってる。
本気だって事も、〝大事な術だから〟って世代を超えて大事に守り続けてきた事も。
ごめんね、
嘘吐き呼ばわりして。
「次は〝Ado〟を検索ワードから除外しィ~?」「音声データのみに絞って片っ端から聴き込む形でいきましょう!」「カタカタっ!ターン!」「ですよ!」
また望み薄そうな検索一覧が広がる。手としては妥当だけどそもそもこの中には絶対無いんだよなぁ………………
なんだ?検索結果の一番上、、、、、、〝パイパイ〟………………〝仮面〟………………?
また翻訳機能の故障か
「じゃあ一番上から聴ってみましょうかァ!!」「はい!ご照覧あれェ~!!!」
「いや、」「絶対違うでしょう」「〝パイパイ仮面〟は絶対に違う」
「またぁ!賢い人はやる前からあれダメこれダメすぐ言う」「いいから!こういう時はしらみ潰しと決まっとるんですよ」「はい!ご照覧あれェ~!!!」
「いやご照覧あれっつったって……………………あ?」
ご照覧あ、れ………………
「あ、始まった」「…………………おぉ~」「映像付きだよ。だいぶ壊れてるけど」
ゴショウラン、アレ………………
「……………うわ、うわうわ」「何じゃこれ」
ゴショウ、、、、ワあれ
「パイ、パパイ…………パパパヤパァ~…………」「…………何じゃこれ」
ゴショ~ゥワアレ、BIBBIDI BOBBIDI BOOWA…………♪
………………………
………………………
………………………思い、出した…………!!