
✔ それから一月近くの時間をかけ、「鬼道丸さんを殺してしまった」という事実は私をゆっくりと蝕み、心身の健康を奪っていった。
あれからろくに眠れていない。
食事もとれていない。
私に人を殺めさせた「鬼道」というものにも触れていない。
秘匿鬼祇術も発動させていない。
ただゆっくりと、残酷な程に緩慢に流れる時間の中で堕落し衰弱していく自身の体と
「オィ」
私は向き合い、己の犯した罪の
「いい加減にしなさい、アンタ」
重責自体を自身への責め苦として
「ッチ!!!!」「オィ!!!」
罪への贖いと代え、この件に関してはもうそれで終わりにしたく
「いい加減にしろっつってんのよ!」「アンタァ!!!」
〝ピュンッ〟
「っっあぁっ!!!!!!!」「倒れた!!!!!!!」「でもローローローローロー!!!!!!!」「激ロー!!!!!!!」
「いい加減にしなさいってアンタ……………」
「てか肉!!!!!」「ほぼ肉!!!!!」
「ちょっと聞きなさいって一回」
「っせぇ!!!!!!急に話しかけてくんな中国人!!!!!!」「ダウンしちゃっただろうが!!!!!!」
「誰が中国人なのよ」
「あぁ!?」「んなことより巻けやシールドを!!!!」
「ちょっと一回ゲーム置いて聞きなさいって」
〝ピュンッ〟
「あ゛ー!!!!!!」「全滅!!!!!!」
「正気じゃないわよ、アナタ今本当に」
「ラダァーがぁ!!!!!!」
「分かったからちょっと一回…………」
「っせぇ中国人!!!!!!お前のせいだよ!!!!!!」「入って来んな!こっちのサーバーにぃ!!!」
「だから誰が中国人だって」
「………………あ、」
「誰が中国人だっつうのよ」
「………………日本語、」「お上手ですね」
「いい加減にしろ本当に」
聞き覚えのあるオカマの声が、ゲーム内ボイチャ越しではなく脳内に直接語り掛けてきていた。
「──────あなた!」
「………………うん」
「秘匿鬼祇術の解明中にやたらと話しかけてきた人ですよね」
「そうだよ」
「公営鬼道師の」
「………………ん?」「いやいや、」
さっきから音質が悪くて耳の奥がガビガビする。
「精度の低い単体空羅ですね。さすが公営鬼道師」「お里が知れます」
「その、」「ちょっとごめんね?」
「はい(^^」
「この前も言ってたその〝奴隷君〟っていうのは、何?」
「え、」「あんたらみたいな公営鬼道師の悪口じゃん」
「白装束…………?」
「うん、トロくて弱いからバカにされてんじゃん」「鬼道師全体から」
「はぁ…………ふんふん、」「そういう世界観なんだ?そっちは」
──────ん?
「何?世界観って」「あなた公営鬼道師の人でしょ?」
「……………いやいや、」
「早く捕まえに来てよ。待ちくたびれちゃった」
「何か知らないけど、違うわよ」
「え?」
「そのなんとかキドウシってやつじゃない、アタシは」
「は!?」
──────ん?
──────え?
──────は!?
──────じゃあ、
「野良の鬼道師って事?」
「え?」
「単体空羅でしょ?これ」「今話しかけてる、術」
「……………違うわよ」
「は!?」
「それが何かは知らないけど、」「違うわよ」
──────え?
──────怖っわ、逆に
「え、じゃああなたは一体誰でこれはどういう…………」
「その前にさァ、ちょっといい?」
「あ、はい………」
「アンタさァ、」「とんでもないサイコ女ね、本当」
「サイコ………?」
ってなに?
「びっくりしちゃったアタシ本当に。」「よく人一人殺しといてそんな悠々自適に生活出来るわね」
…………………………
…………………………
…………………………ん?
分からない事が多過ぎて頭が追い付かないけど、「悠々自適に生活」はしていない筈………多分。
「いや、してませんけど」「悠々自適に生活っていうのは」
「いやしてますよアンタ」
「いやしてません」
「してるわよアンタ」
「どこがよ」
「アタシはちゃんと見てたんだからね!?」
…………………………見てた?
…………………………
…………………………
…………………………いや、
見てたんなら猶更、
「分かりませんか私がこの一カ月間」
「何よ」
「どれだけあの事故に胸を痛めて苦しんでいたか」
「事故!?」
「えぇ」
「あーやだやだ、、、、、、、」
「何だよ」
「あれは〝殺人〟よ!」
「は!?」
何!?怖い…………
いきなり出てきて何言うのこのオカマ
「酷い、そんな曲解のこじ付け、、、、」
「何が曲解だよ」「明確にブチ殺したじゃないのよ、あんたあのハゲの事」
「ハゲなんて呼ばないで!」
「お前も呼んでたんだよ!」
「…………………………」
「…………………………ん?」
「…………………………」
「…………………………何よ」
「…………………………グスン」
「嘘つけお前」
何故涙が出ないのかは自分でも分からなかったけど、事故を殺人にされたんじゃたまったものではないのでこの一月の苦しみを必死に訴えかける事にした。
「でも、、、、」
「何よ」
「私なりに苦しんでたんです、この一カ月」
「そうなのか。」
「……………はい、」「食事も喉を通らなかったし」
「……………そうか」「食べられなかったのか」
「はい、、、、」
「本当に?」
「はい、、、、」「うどんぐらいしか」
「食べてんじゃないのよ」
「いや、でも」「うどんだけですよ?」
「本当に?」
「……………いや、」「数日に一回はステーキ丼なども」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………何言ってんだオマエ」
─────────うん、確かにちょっとおかしいかも知れない。こんなに病んでるのに肉が食べれるのは、ちょっと。
「いや、でも」
「うん」
「うどんの方が圧倒的に多かったです、割合が」
「そうなのか」
「はい、ハマっちゃって………」
「何?」
「いや、、、、、」「そのくらいしか食べられない日が多くて」
「美味かったのか?」
「え?」
「美味いんだよなぁ、たまに食べると」「丸亀製麺」
「いや、、、、」「角鰐製麺…………」
「何でもいいわもう」
「いや、でも本当にィ」
どうやら話が通じないタイプのオカマらしかった
「乗っ取っちゃってんじゃないのよ」
「は!?」
「殺しちゃった人の部屋を」「自分用に改装までしちゃってさぁ」
「なっ!?違っ………」
なんて人聞きの悪い!!!
「いや、それはあなたが捕まえに来るまでの時間を」
「捕まえに行かねーよ誰も!」
「いや、あなたを公営鬼道師だと思ってたの!」
「だから何なんだよそれ!」
「いやーだから、あの、、、、、、」
〝鬼道〟自体が非公式である以上〝公営鬼道師〟も一般人が知っている筈がない──────だからこそ、一般人である筈のこいつが単体空羅で、つまりバリバリの鬼道の縛道で今こうして話しかけてきてる状況の訳が分からなかった。
「ねーあなた、本当に」
「なによ」
「本当に何者………?」
「誤魔化してんじゃないわよ!」
「いや誤魔化すとかじゃなく…………」
「そのなんとかキドウシって何なのかって、」「訊いてんのよ!答えなさいよ早く!」
「いやだから、、、あのー」「悪い事をしたら捕まえに来る人がいんの」
「…………あー、」「警察?」「って事か」
「あ、そうそう」「それだよ、警察」
「それだよ、じゃないんだよ」「いるわけないだろう、アタシのような警察官が」
「それは…………」
分かんないじゃん。
…………………………
…………………………
…………………………え、待って?
警察?────────警察!?
「あのねぇ、分かんないようなら纏めて言ってあげるわよ」「ハゲを殺害してからのアンタの今までの行動を」
「いやあの、」「ちょっと待って下さい」
「黙って聞く!!!!」
姿形の見えない音声だけの存在だったけど、いやに威厳と威圧感と、あと説得力のあるオカマだった。──────あと絶対に、かなり年上だった。だから黙って聞くしかなかった。
「…………………………」
「いいわね?」「まずアナタ、三週間と数日前にハゲを殺害しました」
「…………………………っ!!!!」
「最後まで聞く!!!!」
「…………………………」
「その後、アナタハゲの部屋に侵入してハゲの家財一式全部自分用の新品と入れ替えましたね?」
「…………………………はい」
「その時、ちょっとごめんなさいね」「アタシからはよく見えなかったんだけど」
「はい」
「アンタさぁ、その料金をハゲの残高から支払わなかった?」
「…………え?」
いやそれはもちろん
「払いましたけど…………」
「!!!!?」「アンッッッッタ本当、、、、」
え、、、、、
「バケモノよ、お前は」
何が?
「いや、たくさんあったから」
「何がよ」
「いや、何がって」「残高がですよ、鬼道丸さんの栄命存の」
「それが何よ」
「いや、残高がたくさんあってちょっと家財一式買ってもノーダメなレベルだったから」「そこから払ったっていう。」「それだけの話ですよ」
「アンタ本当、、、、」
「しかもですよ!?」
「何よ」
「使ってもまたチャージされるんですよ」「満額まで」
「うん、見てたわよ」
「見てたの?」
「うん」「凄いわよねぇ、明らかに普通じゃない」「多分この施設自体国の管理か何かで、あのハゲはそこに使われてここに居たんでしょうねぇ」
「…………そう!」「そうそう」
やっぱそうなんだよ!
「そうそうじゃないのよ」
「私もそう思ってました!!!!」
「思ってました!!!!じゃなくて」「聞きなさい、アンタ」
「やっぱそうなんだよなァ………」
「あのねぇ、普通じゃないわよ、アンタ」「ワザとじゃないとは言え人一人消滅させておいてその人の部屋に上がり込んでさぁ」
「えぇ」
「その人の家財一式全部捨てて自分好みのやつをその人の金で買って居付くなんて」
「…………………………うーん」
何回聴いても分からなかった、それの何が悪いのか。
「しかもさぁ、」
オカマは心底気怠そうにフゥーーーーッと息を吐き出して続けた。
「その人の金で食っちゃ寝てゲームしての引き籠り三昧の生活始めたじゃない」
…………………嫌な言い方、いちいち。
「アタシさぁ、もう本当びっくりしちゃった」
「いや、違う違う…………」
「怖かったもん、声かけるの。」「怖過ぎてめちゃくちゃ急用だったのに今日まで待っちゃったもん」
「いや、違いますよ」
「違わないわよ」
「……………いや、誤解です」「本当に」
「誤解?」
概ね正解だったけど今の発言には一つだけ明確な間違いがあった。
「〝食っちゃ寝て〟の〝寝て〟は全然してません」
〝食って〟もないけど、本当は。
「全然寝れてませんでした、本当に」
「……………そうなの?」
「えぇ、もう全然。毎日ほとんど寝れなくて」
「なんで?」
「いやそれはもう、」「自責の念で」
「あらそう」
「はい…………」「だからもう大変でした」
「何がよ?」
「その、寝れない間に何をするのかっていうのが」
「…………うん、」「何したの?」
「え?」
「何したのかって」「寝れない間に、よ」
「いや、それはもう…………」「〝Everlasting Payment〟と、後は、」
「うん」
「海外ドラマの一気観を少々…………笑」
「はいはいはい、成程ね笑」「何観たの?」
「え?笑」
「何の海外ドラマ観たのかって」
「……………え?笑」「フレンズ笑」
「あー」
「もう面白くって笑 あんな昔の話なのに笑」
「うんうん」
「昔の生活ってこんなだったんだなって笑」「あとモニカが年取るごとに美しくなり過ぎだろって笑」
「わかるー笑」「アタシも観てたわ、昔」
「え、ほんとに?笑」「もうあれ本当昔の映像作品の中でも傑作で…………」
「逆だろ?」
「もうね、溶けちゃうの、時間が笑」「〝Everlasting Payment〟やって、疲れて」「そしたら今度はフレンズ観て、また疲れて」「もう延々その繰り返し笑」
「なぁ」
「…………え?」
「寝れないから→ゲームとドラマで時間潰してたじゃなくて」「ゲームとドラマで時間潰してたから→寝れなかった、」「だろ?」
な……………………!?
「騙したなぁ!?」
「騙したなぁ、じゃない」「本当に、全く感じられないわ」「自責の念というものが」
「…………いやでもぉ、」
「何だよ」
「ほとんど寝れてなかったのは本当です」
「ゲームとドラマでな?」
「はい!」
「はい!じゃない」「開き直ってんじゃないのよ全く」
………………なんだろう、
………………何でこんなに話が伝わらないんだろう、このオカマ
「何時間ぐらいよ」
「え?」
「平均何時間ぐらいの睡眠時間だったのかって、この一カ月」
「えー……………」「4時間、半とか、、、、、」
「ん?」
「………………スゥー」「………………7時間、前後笑」
「………………いいわ、もう」
オカマは何か諦めたようだった。
「時間がもったいないわ、アンタと喋っても」「用件だけ伝えて帰るわ」
「用件?」
「そうよ」「用もなくこんな遠いとこまで来てただあんたに話しかけるわけないじゃない」
…………………………
…………………………
…………………………ふぅ~ん、
〝用〟ね、、、、、、、
好きな事好きなように言って自分の用だけ済ませて帰る、ってか…………?
「念波も切れそうだわ、いい加減」「おかしな女と余計な話長々としたせいで」
「その前に」
「……………あ?」
「いいですか、一つ」
「……………?」「何よ」
「謝って下さい」
「……………ん?」「え、え、」「何が?」
「謝ってから帰って下さい」
「…………………………?」
「決めつけで散々酷い事言ったの、謝ってからそっちの用を言って下さい」「そして帰って下さい」
「はぁーーーーーーーー!!!!!!?」
オカマが今日一大きな声を出した。
耳の奥がガビガビ音で痛い。
「アタシが謝る要素どこにあったよ!」「今の流れの」
「全部でしょ!」
「全っ…………!?」
「人の事おかしい奴みたいに言ってさぁ!」「鬼道丸さんの事あたしが気にしてないみたいにィ!」
特大のガビガビ音がうるさかったせいか、涙が溢れていた。
「アンタ、泣いてんの…………?」
「人の事さぁ、なんか…………」「〝おサイコ〟とかなんとか言ってぇ」
「……………〝サイコ〟な」
「そう、」「それ……………」
「……………いや、それはアンタが
「…………………(グスッ」「…………………(ズビッ」
「アンタがおかしい事したからじゃない」「警察にも行かず死んだ人の部屋と金とをネコババしてさァ」「その金でゲーム三昧ドラマ三昧やってたから」
「…………………(グスッ」
「完全におかしい奴だったもん」「サイコパスでしかなかったもの、アンタ」
「これがあだじの悲じみ方なの!!」
「うん?」
「ごうや゛っで悲じむの!!」「あだじは!!」
オカマは完全に勢いを失っていた。
「…………………ふ、ふぅん」「そうなの?」
「酷゛い事言゛わ゛ないで!!」
「…………………分かったわよ」
「酷゛い事言゛わ゛ないでよ゛!!」
「…………………分かりました、」「申し訳なかったわね」
「う゛ぐゆぐゅぐぐゆぐぅゆゆ………(泣」「う゛っ(泣」
「急に押しかけて来ちゃってねぇ、一方的に」「ほんと、悪かったわ、アタシも」
「…………………(グスッ」
「…………………アタシの、」「方が、悪かったかなぁ」「急に、ねぇ?」「こんなオカマが急に」
──────うん。
「怖かったよねぇ?急に、こんなオカマが来て、」「話しかけてきて」「こんなバケモンみたいな有様の、ねぇ?」「ごめんねぇ?」
──────どんなバケモンみたいな有様のオカマかは知らんけど。
──────良しとしてやるか、このへんで
「…………………う゛ん」
「ごめんねぇ?」
「…………………う゛ん」
「大丈夫かなぁ?」
「…………………う゛ん」
「じゃあ、大丈夫かなぁ?」「こっちの用件お話しても」
「…………………う゛ん」「い゛い゛、、、よ゛……………」
「いつまでやってんだこの野郎」
「そっちこそ早く喋って貰えるかな」
「なんっ!?」
オカマが今から話す内容の半分ぐらいは、実はおおよそ見当が付いていた。
「何だぁ!?お前」
「あなた大体5000~6500年ぐらい前の人でしょ?」
「…………え?」
オカマは一瞬考え込んだ。
「どうだろう、そうなのかな」「そっちがいつなのかが具体的に分からないから………」
「〝ラジオ〟聴いてた人?」「それとも〝テレビ〟観てた人?」
「………え?」「え、どっちもだけど………」
訊き方が悪かったか。
「じゃあ~、、、」「〝テレビ世代〟?それとも」「〝インターネット世代〟?」
「あぁ、それは〝インターネット世代〟」
ふんふん。
「じゃあー、」「結構後期の方だね」
「………え、え?」「ごめんなさい、何が何だか………」
「さっき〝警察〟って言ったでしょ?」
「………え、あ、」「あぁ、はい」「言ったわね、」「言いました」
「治安維持を目的とした法の執行機関〝警察〟があったのは、こっちからすると大体5000年前ぐらいまで」「発足したのが大体その1500年前の1900年とかその辺りだから………」
「え、」「待って待って?」
「はい?」
「そっちって、無いの?」「〝警察〟」
「無いんです」
ガビガビ音が酷くなってきてる気がする。
「えー!?」「じゃあ犯罪とかってどうしてる………」
「それもいいんですけど、今度にした方が良さそうですよ」
「………そうなの?」
「はい、音がどんどん遠くなってきてるので」
「あ、そう?」
「そうですね、」「〝用件〟、急ぎめで言って貰って」
〝警察〟とか〝警察官〟みたいな大昔の法執行機関の名を当然のように口にした事からオカマが何千年も前の人間で、その時代に居ながらにして何らかの方法を用いてこちら側に声を飛ばしてきている事は、ちょっと前から察しがついていた。
現代にも〝時を超える技術〟はない。数千種はある鬼道の中にもそんな性質をしたものはなく、私が今体験しているのは紛う事なき超常現象だった。
でも、私は驚かなかった。「公営羅波」や「頭蓋埋没式メモリー」、それに「イオン動力式車両」等、生活に根差したものはともかく総合的な科学技術力はこのオカマがいる時代の方が圧倒的に高かったから。──────今回発掘した秘匿鬼祇術もそうだけど、その大半が失われてしまった過去の遺物を掘り起こして得られる収穫というのはとにかく多い。
聞いた事は無かったけど、〝短時間時間を超えて音声だけを遥か離れた遠い時代の誰かの下へ届ける〟技術もあったんでしょう、多分。──────「数基破裂させれば地球が壊れるミサイル」で国同士が国境を越えて脅し合い、「遺伝子情報をもとに生物個体の複製品を作る」事が当然の科学技術として取り入れられていた時代なんだから、何があっても驚かない。
「わかった、わかったわ」「あのねガガ、ガガガビ」
「!?」「え、聞こえない」
ガビガビ音が本格的に酷くなってきた
「聞こえません!」
「ガガ、ガーない?」「ガガ………ガ………な?」
「聞こえないですー!」
「じゃあガガッ……ガー」「かなぁ、いっかガガガ」
あーあ
余計な話し過ぎたんだよ
まぁ〝用〟ってやつ
あたしは関係ないし、知らないからいいけど
「ガ、…………」「……聞こえる―?」
「……………!」「はーい!」
「良かった、」「じゃあ手短に言うわ」
「はい」
……………何だろう、時代を超えて数千年後の人間に伝えまでしたい〝用件〟って
「あのねぇ、」「助けて欲しいんだわ」
「えぇ」
「壊れそうなんだ、うちらの」「あのぅ、、、、」
「?」
「電脳世界ってやつが!」
「………………うん?」
「それでさぁ!」「ここ!って言った日に」「来て欲しくてさぁ」「助けに」
「………………え、うん」「え?」
交信が切れそうな事で焦っているのか、オカマの話は全然要領を得なかった。
「来れる?」「ねぇ!」「どう?」
「いや、待って待って」「分かんない何の話か」
「なァんでよ!」
「一回落ち着いて。」
「落ち着いてらんないわよ!考えたらヤバいのよ」
「何?何で?」
「今やってるこれ、めっちゃ念力使うのよ」
「うん………?」
──────ネンリキ、
って何だろう
旧時代の
クリーンエネルギーか何か?
「それでさぁ、結構しばらくチャージしないと出来ないんだよねぇ」
「〝ネンリキ〟を?」
「そうそう、」「多分一週間かそこいらは」
「うん」
「そこまでは多分待てないのよ」「多分本当に壊れちゃう、電脳世界が」
「ふんふん」
「バカやっちゃってさァ、うちらの仲間が、」「本当」
「うん」
「一回相談してくれりゃあさぁ、こんな事になる前に」
「待って待って」
一個ずつ解いていけばいい、こういう時は。
「その〝電脳世界〟っていうのはまず、」
「うんガ、ガガ」
「何なの?詳しく説明すると」「何の用語?」
「…………………………」
「ちょっと?」
「………ガ、ガガ、ガ、ガビー」
「おーーーーい!?」
いやいやいや
ダメでしょ、今は
さすがに気になるやつ。
「ちょっとーーーー?」
「ガ、ガ…………ーい」「はいはーい!」
「あぁ良かった」
〝ガッ〟
「ンガっ!!」「ガッ……………」
「おぉーーーーーい!?」
「………………ガッ、、、、アガッ」
「今は切れないでぇー!?」
「ゴ、ゴメンナサイ」
「あ、あぁ」「大丈夫か」「良かった」
「今のは、ちょっとあの、」「轢いちゃって、自分の足を」「イスのゴロゴロで」
「え?」
「で、ちょっと」「信じられないぐらい痛くて…………」
「…………………………」
「…………………………イッタ、本当」
「…………………………え、」
「…………………………ん?」
まさか
「ワザとやってます?」
「は?」
「切りますよ?」「イタズラだったら」
「……………は?」「や、違うわよ!」
「余裕タップリじゃねーか!」
「違うわよ!」「未曾有の大焦りよこちとら!」
「早く言えよじゃあ!」「交信が切れちゃうだろーが!」
「わ、分かったわよ」「………………あの、〝電脳世界〟っていうのは」「インターネットとかそういうの全般よ」
「うん」
公営羅波の基になったやつね
「あとはー、あの」「SNSとかもよ」
「SNS…………?」
何だろう。
「インスタとかXとかそういうの全般」
「え、なになに…………」「どういうの?」
「なんか皆で交流するやつだよ」「ないのか、未来にはSNS」
………………知らんなぁ、、、、
「まぁ正解かそっちの方が」「無くなった方が良いのかも知んないわね」
………………あ!
「2ちゃん、、、」
「ん?」
「ってやつ?」
「……………いや、まぁ」「違うけどまぁそんなようなものよ」「あたしあれ大っ嫌いなんだけど」「ちなみに消える、それも」
「…………………………」
成程。
分かってきた。
「あとは~、、、、、、、」
「………………要するに、」
「ん?」
「〝ハッカー〟みたいなのがいるんだ?」
「……………そう!」「そうそれよ!そんな感じ」
成程成程。
「まぁちょっと〝ハッカー〟とは違うんだけど」「うちらの仲間内からその〝ハッカー〟みたいなのが出ちゃってさァ、」「全部壊して消去しようとしてんのよ、世界中のインターネット上にあるものとかクラウド上にあるもの何もかも全部」「インターネットっていう仕組み自体も壊して二度と復活させないって息巻いててさァ、」「説得も何もかも聞かなくてさァ、もう止められないんだよ、本当」「助けてよ」
「うんうんうんうん………………」
ちょっと何個か分からない単語があったけど、でも
話は大体分かった。
──────けど、
「それ私に言われても分かんないよ」
「…………え、」「どうしてよ」
「いや、それはもう……………」
自慢じゃないけど私は公営羅波は苦手な部類で、設定も何もかも調整舎の人に任せきりだった。この人の時代は〝インターネット〟を始め何もかもを精密機械で運用していた筈だけど、それもからっきし苦手。──────そもそも、
「それ関連のプロの人がいるでしょ?」
「何?」
「プロの人だよ!」「その〝ハッカー〟っていうのに対抗できる人」
「いるけどそういうんじゃないんだって!」
「何が」
「逃げ込んじゃうんだもん、PCの中とかネット回線の中とかに」
「うん……………」「うん!?」
「会社の技術班に頼んでもさァ、ファイアウォールもウイルスバスターも全部すり抜けて逃げちゃうんだもん、」「スマホとか別の端末に」
「え……………えぇ?」
〝PC〟とか〝インターネット回線〟とかって、
「人が入れるサイズでしたっけ…………?」
「ん?」
「だいぶ小柄な人なの…………?」
「ちがっ!!だからぁ!!」「AIなのよ、その子はぁ!」
「あ、あー」「そういう…………」
ん?
「あんた本当伝わんないわね!話が」
「ちょっと待って?」
「何よ」
「さっき〝仲間〟って言ったでしょ?その〝ハッカー〟の事」
「言ったわよ」
〝AI〟が〝仲間〟……………?
「どういう意味?何の仲間?」
「仕事のよ」
「仕事の…………」「同僚って事?」
「そうよ、同僚よ」
「〝AI〟が〝同僚〟なの?」
「そうよ」
〝AI〟が自我を持ってて悪の〝ハッカー〟に堕ちて世界中のインターネット関連の何もかもを破壊しようとしていて、そいつが〝同僚〟で〝会社〟で一緒に働いてた………………??????
「ごめんなさい、」
「?」
「アナタは、一体何のお仕事をされてる方なの?」
「アタシ?」
「そう」「お仕事は何?」「〝インターネット〟の運営会社?」
「アタシはVTuberよ」
「ぶいちゅう…………?」
何だよ、それ
「VTuberです、アタシは」「ラグプロ所属の超絶・人気有名Vよ」「1期生ね?ちな」
…………………………
…………………………
…………………………アー、
アーもう無理。
無理無理無理。
無理。
やる気なくなった。
「もういいよ」
「何がよ!?」
「帰ってよ、もう」
「はぁ!?」
「分かんない単語ばっかり並べられてさぁ、」「もう分かんない、疲れた」
「いや、待ってよ」「本当に大変な問題ガガガピ」
おう切れろ切れろ
そのまま交信切れて帰っちまえ
「だってさ、考えてもみなさいよアンタ」
「何だよ」
「過去の電脳世界が壊れたらさ、未来のも壊れんのよ?」
「うん?」
「MCU方式だったらいいけどさァ、ターミネーター方式だったらどうすんのよ」「連動して壊れちゃうじゃない」
「…………いやいや、」
「当然あんでしょう?アンタんとこにも」「ネットとかそういうの」
「いや、」「ないよ、MCU方式なんか」
「何?」
「ないって、ああいう〝過去を変えたら世界が分岐して〟どうたらこうたらなんて」
「うん」
「すぐインフレかまして話が行き詰っちゃうマーベルが作った苦肉の策だよ、あんなの」
「あら、」「分かっちゃう?未来の人にも」
「分かりますよ、当然」
「じゃあ来てよォ~、お願い」「アンタが来てくんなかったらアタシらもうどうしようもないのよォ~」
──────確かに、このオカマが言っている事が本当で数千年前の世界で〝インターネット〟が壊されて消滅するなら、それを基盤に作られた現代の公営羅波も危ない。〝インターネット自体二度と復活させない〟というのをそのAIが有言実行出来てしまえた場合、公営羅波はそもそも生まれない流れになる。
雲を掴むような話だけど、〝数千年前の世界から現在に交信出来ている〟というこのオカマの今の状況自体がそのまま信憑性の担保のようなものだった。──────多分物凄い高等機器を使って成し遂げている事だと思うけど、〝チャージする〟と言っていたそれ用の〝ネンリキ〟もきっと物凄く高単価なエネルギー資源な筈。〝何処何処所属の〟と誇らしげに言っていたからもしかするとそれなりに身分の高い人で、時代を代表して助けを求めに来ている形なのかも知れない。
正直、気持ちとしては協力したいしきりだった。そもそも〝数千年前の人と交信出来ててその時代に呼ばれている〟なんてこんな胸熱な状況他にあるもんじゃないし──────ただやっぱり、
「競合他社なんてもう二つも潰されちゃったのよ!?そいつに」「会社のサーバー全部ダウンさせられてガッガガ」「所属ライバー全員の個人情報全部ネットに流出させられちゃってさァ」「もうてんやわんやよガ、ガガ、ガピー」「ガ、ガガそれがうち由来のAIによるものだってバレたらアンタそりゃもう訴訟の嵐でザ、ザー」
「あの、」
「ガ、ビビ、ザー………い?」「何?」
「何で私なんでしょうか?」
「?何がよ」
「なんで私が選ばれたのかなって」「〝AI〟だとか〝インターネット〟だとか、出来る事ないんですよ」「時代も違うし、専門外もいいとこなんで」
「そりゃアンタ、」「知らないわよ」
「あん?」
「アタシはアンタ、」「検索かけただけなのよ」
「…………………………」
無いんだよいっつも。
主語とか述語とか大事な情報とか。
話の順番もおかしいし。
「アタシってさァ、ほら」「念力使えるじゃない?」
知らねーよ
「………………チャージすればね?」
「そうそう、」「それでさァ、あの」「あんまりにも大変な状況だったからね?」「〝最強の人〟を教えて下さいぃ~って念じたのよ」
「……………最強の人?」
「そうよ、もうあんまりにも人智を超えてる状況だったから」「念じたのよ、」「〝人類史上最強の人〟をお教え下さいィーって」
随分ざっくりした検索の仕方だなぁ
「…………はい」
「そしたらアンタ、最初誰が出たと思う?」
「マザー・テレサ」
「ん?」
「マザー・テレサでしょ?」「〝人類史上最強の人〟」
「え?」「何言ってんの?アンタ」
「え?」「いやいや、」
〝人類史上最強の人物はマザー・テレサ〟は、少なくとも現代ではベタ中のベタな有名な話だ。──────聴覚障害と視覚障害をかけもちしていて言葉も話せないのにボクシングの才能を開花させプロ31戦無敗のままキャリアを終えた奇跡のような存在、、、、、、最後の試合、31戦目で勝利した後コーナーポストに座り「燃え尽きたぜ、真っ白にな」と人生で初めての言葉を口にして生涯を終えた、という逸話は涙なしには聞けない。
「…………いや、それも一つの正解か」「…………深い事言うわね、アンタ」
「で、実際は誰だったんですか?」
「え?」「あ、あぁ」「吉田沙保里よ」
ッ!!!!!!!?
「あの!?」
「そーよ!」「やっぱ有名かぁ、未来でも」
「え、えぇ…………」「神話として…………」
「神話にもなるよなァ、」「あの強さだもん」
実在したんだ…………
「彼女は、その、、、、」
「何よ?」
「〝人類〟に数えるんですか?」
「お前笑」「言い過ぎだっつーの笑」
「…………………………」
「意外と普通の乙女なんだから」「気にするぞぅ?そういうの笑」
「…………………………」「あの、」
「何よ笑」
「本当に焦ってます?」
「あ、やっべ」「忘れてた」
「何なんだよ結局」
「いや、だからよ」
「うん」
「〝暴走したAIを何とかして下さい〟なんてさ、」
「うん」
「頼んだってどうしようもないじゃない、吉田沙保里に」
…………………そうなの?
「何でも出来るんじゃないんですか?彼女なら」
「いや、そりゃ無理よサオリにだって〝AI〟とか〝電脳世界〟とかそういうのは」
「そうなんだ」
「それでもう一回検索し直したのよ、」「〝今回の騒動に対処できる中で人類史上最強の人物をお教え下さい〟って」
「成程、」「〝AI〟とか〝ハッカー〟とかそういうのに………」
「そう、」「そういうのに対処出来る中で最強の人~、」「って」
「はいはい」
「そしたらアンタが出たのよ」
だからそれが分からん。
「本当に何も出来ません、私」
「本当?」「でも凄かったじゃない、この前なんかさァ、」
まず〝AI〟とかそういうのが無理なのは一旦置いておくとして、〝最強の人〟で私が出たのもよく分からない。鬼道師としてならかなり強い部類だけど、それでももっと高級の鬼道師なんていくらでもいるし、〝六支家〟とかいう不動の貴族連中もいればその上には彼らを束ねる鬼道大帝やそのシンパなんかもいて、当然私よりもっと強い。
「宙に浮いて青い光でビカビカーってなってさァ、あの」「ハゲを、あ、あの…………」
──────!!!!!
──────秘匿、鬼祇術………!!!!!
「や、殺っちゃったやつ…………ハハ」
「それだ…………!」
「ご、ごめんなさいねぇなんか」「アンタなりに辛かったんだもんねぇ?アレはアレで」
〝秘匿鬼祇術〟だ、私に白羽の矢が立った理由。──────数ある鬼道師の中で私だけが選ばれた理由。それだけだもん、私が他と比べて突出してる部分って。
この人はさっき〝AIが回線を伝って端末から端末へと逃げる〟って言ったけど、秘匿鬼祇術の〝ひび〟でそのAIがその時いる端末を割ってしまえば多分そいつは他所に逃げられない。赤火砲という無形物がそうなったんだから電気信号の塊でしかないAIもやっぱりそれは同じ筈で、〝ひび〟で捕らえた後崩してしまえばきれいさっぱり消滅するのも同じな筈…………
そうやって倒せって事なんだ、きっと。数千年前の〝電脳世界〟を破壊して現代にまで悪影響を及ぼそうとしているその悪の存在を。──────多分、そういう時のためにあるんだ、〝秘匿鬼祇術〟自体。鬼道とか技術とかで対処できない特殊な人類の敵を打ち滅ぼすために作られたもので、在るものなんだ。
思えば、〝問題に対処し得る中で一番強い誰か〟で検索をかけたこの人が私の下へと導かれたのは私が秘匿鬼祇術の発動に成功した直後だった。
偶然なわけがない。これは私が秘匿鬼祇術を使って対処しなきゃいけない問題だし、それが秘匿鬼祇術を受け継いだ私の、きっと義務で使命なんだ。
「でもねぇ、アンタはもうちょっとガガッガッピ」「もうちょっとガガッガちゃんとしなきゃダメ、いくらなんザ、ザザー」「あれじゃアンタ自体ザー、ザーザザうと」
「行きます」
「誤解ザ……ザザ、うわ」
「ちょっと?」
「ザザザった?」
「はい?」
「ガガーガピ、ガ言ったいま?」
まずい
本格的に交信が切れるのかも知れない
「行くって言った?今」
「え?」「はい、言いました」「協力させて下さい」
「ヤダ!え!?」「どーしたの急にィ!」「ヤダァ、助かるわぁアンタ」
「あのね」
「やってくれると思ってたのよォあんた」「悪い奴じゃないとガガッガッピ」「ちょっぴりおサイコザーザザー」
「ストップ!ストップ!」
「ん?」「ザ、ザザーザ」
「多分もう交信が切れます!」「要点だけ話しましょう!」
「ザーザザい!」「ザ、ザザーザ」
……………切れるか?
……………ええい、もう!
「行きます!そっちの時代に!」「行って対処させて下さい、そのAIに!」
「ザー…………」「ザ、ザー…………」
「飛ばして下さい!そっちに」「いつでもいいですよ!何なら今でも」
「ザー………」
「……………………」
「ザー………ガ、ガガ」
「……………………」
無理、だったか………?
「ザー………よ」
お!
「何?」「何ですか?」
「………無理って言ってんのよ!」「無理って」
……………無理?
「無理って、何がですか?」
「〝飛ばして下さい〟とか無理に決まってんじゃない」
「ん!?」
「だから、」「未来にいるアンタを現在に飛ばせ、なんて」「アタシには無理だっつってんの」
「………え、」「え?」
じゃあ〝問題に対処しろ〟って、どうやって………?
「アンタが来るんでしょうが」「なんかパーッとやって、さァ」
〝パーッとやって〟、行く?──────何千年か前の、過去の世界に?
「いや、そっちが呼んでるんだから、」「そっちの役目じゃん」「おかしいじゃん、それこっちに頼るの」
「は?」「……………いやいやいやいや笑」「無理に決まってんじゃない、アンタそんなの」「超能力者だからって何でも出来ると思ってんじゃないわよ、アンタら本当にどいつもこいつも…………」
……………………
……………………
……………………え、超能………?
「あなた超能力者なの?」
「は?」
「今言わなかった?超能力者って」
「言ったわよ!」「ずーっとそう言ってんじゃないのさ」「何聞いてたの?逆にずっと」
いや、、、、、、
聞ィーてませんけど!?
「いるわけねぇだろ!」
「あ?」
「〝超能力者〟なんて!」「いねェーよそんなの!」
「いるよ!」「おめェーだって超能力者だろ!」
何その言いがかり!?
「いや、違っげェーよ!」
「いやそれ以外ねーだろうが」「あんな宙に浮いて青いひび割れこさえてバチバチやってさァ」
「鬼道だよ!あれは」
「………ん?」
「キ・ド・ウ!!」「あれは鬼道であたしは超能力者じゃなくて鬼道師!」
「……………………」
「……………………ハァ、ハァ」
「……………………ゴメン、」
「?」
「〝キドウ〟って、何?」
……………………え、
……………………
……………………
……………………もう、
何、これ?
夢?
狂った?あたし
人一人殺した上で
地下に一人籠って
誰とも喋らない時間長く過ごし過ぎたせいで。
もう訳わかんない
どうしよう、今までのこれ、
誰もいないのにずっと一人で喋ってたって
オチだったら………………
「……………………」
「…………………ゴメン、」「ゴメンねぇ?なんか」
「……………………フゥー、、、、、、」
「…………………じゃあ、あれか」「結論無理って事か、現時点でこっちに来んのは」
「……………………えぇ、」「無理ですよ」
「……………………そっかァ、」「でもねぇガガッガッツピ」
「…………………?」
「無理じゃないと思うんだよなァ」「アンタからすれば、時間渡航の旅ごとき」
「いや、、、、、」
無理だって、、、、、、
「いけると思うんだよなァ」「だってさァ、」
「?」
「空間割ってたよ?アンタ」「あのひび割れ作ってたやつ」
それは、まあ
「割ってましたね、空間」「確かに」
「だっしょー?」「でさァ、そこにあったもの全部消し去ってたじゃない」「塵一つ残さず」「死た、、、、、、、、、」「……………………、」「ねぇ?」
死体もね
「えぇ、まぁ」
「そんな奴からしたらタイムリープぐらい訳ないと思うのよォ」
「タイム…………?」
「あぁ、」「〝時間渡航〟よ」
「いやそれとこれとは」
「いけるってぇ!」「第一ねぇ、無理だもん」「アタシじゃ」
「……………うん?」
「アタシ念力でかなり何でも出来るタイプだけどさ、」「絶対無理だもん、〝時間渡航〟とかは」
「そうなんですか?」
「無理よォー、」「こうやって声飛ばすのが精いっぱい」
「……………………」
〝ネンリキ〟は超能力なんだっけ?
それとも過去の行き過ぎた科学技術の話なんだっけ、、、、、
分かんないや、もう、、、、、
「そこへいくとさぁ、アンタの〝ひび割れ〟は普通じゃないよ」「アタシあれも絶対無理、絶対出来ない」「やっぱさァ、時間渡航出来るとしたらアタシじゃなくてアンタだよ絶対」
しかもね、とオカマはまくし立てる。
「アイツが電脳世界を壊すまで、多分あともうほんの数日とかそこいらなのよ」「それまでに新規で〝時間渡航の能力会得!!〟とかは絶対に無理だから、アタシは」
「…………まぁ」「でしょうね、それは」
「でしょ?」「そこへいくとさぁ、アンタはまだ時間的余裕あるじゃない?」
…………………あぁ、
成程。
それは確かに……………
「こっちの時間で…………」
「そう!」「そっちで言うもう何年か後にアタシもっかい来るからさァ、」「それまでに会得しといてくんない?〝時間渡航の………〟」「その、なんか、何だっけ?」「〝キドウ〟?」「っていうやつ」
〝時間渡航の鬼道〟。
聞いた事ないよそんなん。
「保証は出来ませんけど、まぁ」「探しときます、出来る限り」
「〝出来る限り〟じゃ困るわよォー、アンタ」「何年後よ?」
「…………え、」
期限を設けろと…………!?
存在するかどうかすら怪しい恐らく〝秘匿鬼祇術〟に当たる、
あっても確実に激レアで生涯お目にかかれるかどうかも分からない代物を会得する期限を!?
「分かんないよ、そんなの」「急に言われても」
「ダメよアンタァ!!こういうのは期限決めてやんないとォ」
「…………え、えぇー」「じゃ、じゃあ、」
なるべく長めにとっといて……………
「30年後、とか」
「遅すぎるゥ!」
なんでだよ!
「だ、だってあるかどうかも分からないものを会得するんだからなるべく先の方が」
「ダメよこういう時に〝何十年〟とか悠長な事言う奴はァ」
「何で?違いあるの?」「〝ネンリキ〟余計にかかっちゃう?」
「かかんないわよ、一緒よ」「別の点に飛べばいいだけなんだから」
「じゃあいいじゃん」「〝チャージ〟、時間かかるんでしょ?」
「かかるわよ」
「そんな何回も来れないんじゃないの?じゃあ」
「来れないわよ」「出来てあと一回ね、AIの活性化具合いを見るに」
「じゃあ猶更先の方がいいって!」
「ダーメ!」「こういう時先延ばしにする奴は大抵達成出来ないのよ、大層な目標なんて」
……………うん、
一理ある、それは。
「だから今日から死ぬ気で探しなさい、〝時間渡航のキドウ〟」「3年後にまた来っから」
─────!!!!!!!!
「いや無理!」「3年は無理でしょ!」
「ダメ!」「3年後の今日この時間きっかり!」
「いや、、、、、」「待って待って待って?」
私だって〝電脳世界が破壊されて以後永遠に無くなる〟事の重大さは理解していたつもりだし、〝秘匿鬼祇術〟を受け継いだ者として曲がりなりにもそれを防ぐ責任は感じているつもりだった。
だから猶更、このオカマが勢いで決めた〝3年〟なんて短期間をなし崩し的に受け入れるわけにはいかなかった。
「せめて5年!」「……………か6年!待って?」「そしたら必ず結果出すから」
「……………………」
「ねぇ!聞いてんの?」「ねぇって!」「やっぱ10年待って!そしたら」
「ザ、ザザ、ザ、ザーーーーーーーーー」
「あぁ!」「ズルいじゃんこのタイミングでそんなの!」「待ってよ!無理だってそんなのー!」
「ザーーーーーーーーーーー……………」
「ねぇ!」「ねーーーーーーーーー!!」
多分本当に交信が切れた瞬間だった。
という事は、オカマは本当に3年後の今日この時間きっかりにまた来る。
〝時間渡航の秘匿鬼祇術〟を探し当てるなんてたった3年で出来っこないのに……………
「アホ―ーー!」「無理に決まってんだろそんなの!」「アホ!」「オカマ!」
絶望でオカマへの怒りが止まらなかった。
「〝秘匿鬼祇術〟探すのどんだけ大変か知らないだろ!」「ほとんど伝説なんだぞ!」「プロの鬼道師だって誰もその存在信じてないんだぞ!」「具体的にどうやって探すんだよ!」
どれだけ怒鳴っても地下室は静かだった。─────こんな時になんだけど、改めて、いい部屋だ、ここ。
「あとお前絶対ド級の百貫デブだろ!」「声で分かったぞ!デブ!」「デーーーーーーーーブ!!」「デブでオカマで超能力者とかどんだけキャラたってんだ!」
「オィ」
「インターネット・タレントでもやればいいんだよ!」「世界の心配なんかしてないで!」
「オィ!!!」
………………ハァッ!!!!!!!!
「……………結構言うじゃない、アンタ」
「……………………」
「気に入ったわ、なんか」
「……………………いつ聴いても、」「素敵なお声ですね」
「やかましいんだよ」
「……………………スイマセン。」
「そんなに無理なのか?」「〝3年〟で何とかするのは」
「……………………スゥー、」「イイッスカ?正直」
「いいよ」
「ムリッス。」
「あぁそう」
「非・現実的の極みッス」
「そうなんだ」
「ハイッ。」「〝電脳世界崩壊〟の危機を確実に止めるためにも、ココは一つ、余裕をもって、、、」
「ちょっと、」
「ハイッ。」
「名前、聞いとこっかな」
「ハ、、、、、」「名前?」
「うん」
……………………
……………………
……………………どうしよう、
なんか気が引ける。
結構喋ったけど知らない人だし、顔も見た事ないオカマだし…………
〝超能力〟とか〝電脳世界が〟とか、変な事ばっかり言うし…………
「………エー、、、、」
「………………あ、あそう」「言えないか、アタシには」「こんな、」
「いや、いやいや」
「デブの!」「オカマの!」
「いやいやいや」
「自称超能力者の!」「得体の知れないアタシには!!!!!」
「言います、言いますよ」
オカマは、普通に傷付いているようだった。
口調の端から涙が滲んでいるのが分かる。
「斧持です。」
「………………うん?」
「斧持ソウガって、いいます」「私は」
「………………何、」「倉持?」
「や、、、、、、」「斧持。」
「………………小野寺?」
「いやいや、、、」「斧持。」
「……………………オノモチ………?」
「ソウガ。」「斧持ソウガ、」「です」
「……………………変な名前」
………………………
………………………そうかなぁ?
「まぁ、いいわ」「じゃあー、」「ソーガちゃん」
「はい」
「何年待って欲しいのよ?」
「─────!!!!!!」「いや、それはもう」「出来るだけ長く」
「ダメよ、それは」「ダラダラしちゃうんだから、どうせ」
「や、そんな事ないですって」
「本当?」
「はい、もうそれは分かってますから」「事の重大さは重々。」
「ゲーム、やんない?」
「え、」「え…………」「え?」
「ゲームよ、ついさっきもやってた」「ここ一カ月ずっとやりっ放だったゲームよ」「狂ったかのように」
「え…………」「うん、」「………………何ぃ?ちょっと良く、」
「聞こえてんでしょ」
「………………いや、」「やんないですってさすがに」
「本当?」
「はい、もう分かってますから、事の重大さは」
「あぁそう」「やめる?」
「え?」
「〝5年〟とか〝10年〟に期限設定したらスパッとやめて術探す?」「明日から」
「……………」「……………え?」
「聞こえてんだろって!」
「……………いや、それはもう、」「もちろん!」
「本当に?」
「もちろんですって!」「非常事態なんですから!」「天地神明に誓って………」
「無理だろ?」
「……………無理ぃwwww」
「ほら見なさいよ」
「いやだってさぁwwww」「すっごいの、〝Everlasting Payment〟wwwwww」「調整が不十分でゲーム性が安定しないんだけどさぁ、」
「うん」
「そこがまた癖になるって言うかwwww」
「分かる分かるー笑」
「え、ほんとに?」
「うん!アタシも知ってるもん笑」「仕事でよく使うから」
「そーなの!?」
えー…………羨ましい仕事。
「なんかさァ、」「ベストな感度に設定したら視点勝手に動いたりしない?」
「─────!!!!!!」
「〝Everlasting Payment〟」
「そう!!!!!!」「あれ何なの?」「あれもう最初本当に気持ち悪くって、」
「出来なくなるわよ、それも」
「…………うん?」
「要はオンラインゲーじゃん、あれも」「じゃあ出来なくなるわよ、ネット関連全部壊れたら」
「……………あ、」
………………………
………………………
………………………大事じゃァん、、、、
「……………………」
「やる気出た?」
「出ました。」
「本当に?」
「本当です。」
「あぁそう」
「やる気出ました、本気で」「本気でやる気出た上で、」
「うん」
「5年下さい。」
「…………あぁ、そう」
「やぱ6年。」
「やっぱ厳しいんだ?そのくらいないと」
「はい、もう」「物理的に無理って言うか。」
「うん」
「この前見て貰ったあの〝秘匿鬼祇術〟」「あるじゃないですか?」
「うん」
「あれも完全に運要素と言うか」「自力で見つけた感じじゃないんですよ」
「そうなの?」
「そう!」「向こうから勝手にお呼びがかかったというか、」「かかった上でただひたすら運が良かっただけー、」「みたいな」
「あぁそうなんだ?」
「はい、」「〝時間渡航の鬼道〟ともなると〝青いビカビカ〟よりもっと時間かかるでしょうね」「そもそも存在してる可能性自体がちょっと」「アレっていうのもありますし」
「そうかそうか」
「えぇ、」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
オカマが何事か考え込んでいる。
たまにブツブツ言う声が聞こえなかったらとうとう本格的に交信が切れたのかと思うところだ。
「……………………分かりました。」
「……………………はい、、、、、」
「アタシ、ちょっと甘く見てたみたいね、その」「〝キドウ〟ってやつの事」
「あ、はぁ、」「まぁ、ちょっと。」
「だから、」「今の話を十分加味しまして!」
おぉ!!!!!
「はい……………!!!!!」
「3年後の今日この時間きっかりにまた来まァ~~~す!!!!!」
─────!!!!!!
「お、、、」「お゛ォ゛い!!!!!」「お゛ーーーーーい゛!!!!!!」
「ダメ。微動だに動きません」
「ちょっと待って!」「待ってって!」
「ピクりとも心動かされませんでしたっ。」
こいつ───!!!!
「お前遊んでんじゃねんだぞ!!!!!」「このオカマ!!!!!」
「何ィ???」「誰ァれがオカマだ!!!!!」
「─────っ!!!!」「………………いや、、、」
………………………
………………………
………………………お前だよォ……
「いやいや、」「いや、」「待って下さい、、、、」
「いーや、ダメだね」
「何で…………」
「アンタは周りが甘やかしたら甘やかした分だけ等倍で調子に乗って堕ちていく奴だと見抜きました、」「アタシは」
「…………えぇ?」
私は、
もうほとんど泣いていた。
「そんな事ない、私自分には人一倍厳しいです」「だから鬼道の修練だってこの歳でこんなに積んで……………」
「……………………〝私は自分に厳しいです〟なんて」
「?」
「言うか?」「本当に自分に厳しい人間が」
──────??????
──────いやでも、実際、、、、
「人を手に掛けても事故だと言い張り、」「それを誰に伝えて責任を取るでもなく、」「その人の金をちょろまかして悠々自適な生活を送り、」「挙句の果てにアンタ、」「その〝キドウ〟とかいうのもやらずに一カ月ただ遊んで暮らしてただけじゃない!」
「─────!!!!!!」
──────いやでもそれ全部、
──────事実か不可抗力じゃない……………!!!!
「いや待って、、、、」
「いーえ、待ちません。」
「待って、、、、」「松井さん、、、、」
「──────?」
「待って、、、、」「松井、、、、」「貴博、、、、」「さん」
「…………………」「…………………誰よ?マツイタカヒロって」
「…………………いや、」「似てるから、、、、」
「…………………と・に・か・く!」「アンタにはねぇ、これから3年みっちり、、、」「──────あっ!!!!!」
「…………………?」
「やっべ!!!!本当に交信切れ─────」
〝ブツッ〟
「…………………」「ちょっと?」
「───────」
「あの、、、、、」「オカマ、、、、、」「さん?」
「───────」
オカマは、もう何を言ってもうんともすんとも応えなかった。──────〝オカマ〟〝デブ〟とどれだけ悪口を言って罵っても、何も。〝ザー〟〝ガビガビ〟みたいなノイズも何も聞こえなくなり、地下室の完全な静寂がまた私を包んだ。
こうして、世界の命運は私に託された。
〝世界〟というのは、インターネットやその周辺を主とした〝電脳世界〟のみならず、文字通り私達の生きるこの〝世界〟の事だ。オカマが〝ゲームが出来なくなる〟と言った時に気付いたけど、インターネットが使えなくなって滅ぶのは〝電脳世界〟だけじゃない。
〝労働〟の大半にネットが組み込まれ、〝政治〟〝医療〟〝個人情報〟等の重要機密の全てもネット上に保管され、〝情報を集める〟のも〝娯楽に興じる〟のも〝コミュニケーションを取る〟のも全面的にネットに依存していた数千年前の世界でそれが失われれば、きっと〝世界〟は崩壊する。──────全ての労働が立ち行かなくなり、全人類のプライバシーと安全が失われ、情報は行き渡らず娯楽は供給されず、人々は互いにコミュニケーションが取れなくなり、全ての国のあらゆる社会機能が停止し、〝事故〟〝貧困〟〝略奪〟〝争い〟〝病気〟〝自死〟………………ありとあらゆる〝死〟が地球上を覆い尽くすだろう。
そのAIが本当にインターネットを〝ただ破壊して葬る〟だけならまだいいけど、〝ハッカー〟〝情報流出〟のワードも出たからただ壊さず〝悪用する〟可能性もある。──────現代ではただ畏怖の対象として語り継がれている、かの悪名高き〝古代兵器〟の数々も普通に考えればオンラインで管理されていた筈で、最悪の場合それを操作する事も……………
時間変動の仕組みが〝ターミネーター方式〟だとすれば、そんな大事変が世界を襲った記録もなく、こうして世界も滅んでいない現状、私は世界を救えた事になる。──────それか私が何をするでもなく過去の人々が自分達で勝手に対処出来てしまえたか………………
いずれにせよ、私はここから先の3年を全力で走りきる気持ちを固めていた。
だって〝過去に飛んで〟〝世界を救う〟なんてどう考えても燃えるし、目標は高い方がやる気が出るし、〝時間渡航の秘匿鬼祇術〟なんて、あるなら絶対に手に入れたかったから。
そして何より手に掛けてしまった人の事を想うと「やるしかない」って、自然とそう思えたから。
→【ホロライブ・アフターライフ】05 に続く

