⚠ 映画「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)」のネタバレを含みます ⚠
✔ 18:39~ 映画シリーズMCUの中ではアイアンマン推しである事を語る大空。「アベンジャーズ(2012)」で仲間が増えるも「シビル・ウォー(2016)」で仲間割れを起こし、キャプテン・アメリカを主とした反対勢力に打ち倒される展開に「やめたげてよォ!」と悲痛の声を上げる。
✔ 19:10~ 「シビル・ウォー」でトニーと戦ったキャプテンの「正論パンチが強過ぎる」と唾棄する大空。トニーの事を語る時とは対照的に舌打ちでもしたんじゃないかと思う程憎々しげに語る様子から分かるのは大空は「殴られているところを見ると悲鳴を上げる程トニーが好き」で「正論ばかりでうるさいキャプテンが嫌い」だ。
この記事で一番大事なのはここになるのでもう一度言っておくと、大空は「トニーが好き」で「キャプテンが嫌い」だ。
✔ 「シビル・ウォー」はこれまでのMCU作品の中でも指折りによく出来た一本で、これをチェックしているとは大空さんさすが映画好き、といったところなのだが、当時のアベンジャーズの二大リーダー「アイアンマン」と「キャプテン・アメリカ」の二人を筆頭とした二つのチームに、アベンジャーズを裂いてまで争わせた衝撃的なストーリーには製作者によって込められたとある意図がある。
「シビル・ウォー」冒頭のスカーレット・ウィッチの失態からしばらく「アベンジャーズがこれまでの活動でどれだけの二次被害を生み出して一般市民に迷惑をかけて来たか」という説明ががっつりと成される。世界一の大都市が崩壊したり国が丸ごとぶっ飛んだり、それらの当然の帰結として各地の一般市民が大人も子供も無差別に大量死したり、それはそれは悲惨な有様なのだが、その中でトニーが「お前のせいでうちの息子が」と被害者遺族に直談判される重いシーンがある。「シビル・ウォー」の中では明確に語られていないが彼女の言う「お前のせいで」は「二次被害」などとは違う掛け値なしの「お前(トニー)のせいで」だ。
彼女は「ソコヴィア」という国にボランティア活動に出向いていた、成績優秀で将来有望な息子を「ウルトロン」というヴィランに殺されているのだがこの「ウルトロン」はトニーがチームの「危険だからやめろ」という意見を押し切って独断で製作したロボットで、そいつとの戦いが描かれる「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015)」でのウルトロンによる大量殺戮はトニーに全責任がある。
直後のアベンジャーズのチーム会議でトニーがいやに神妙な様子で、ロス長官が提示した「ソコヴィア協定(二次被害が過ぎるアベンジャーズを国連の指揮下に置く協定)」の調印に従う意志を見せたのは簡単に言えば「罪の意識」と「自信の喪失」からだ。トニーに従うメンバー達の意見も色々だが大体は同じ趣旨の物が並ぶ。
「世界規模の悪党を見つけると国境を超えて駆けつけ、武力によって討滅せしめる」「でも最近は【ちょっとやり過ぎじゃね?】【自分の事何様だと思ってんの?】【二次被害どんだけww】」などと言われて「【罪の意識】と【自身の喪失】が半端ない」という条件とピッタリ一致する物が現実世界にもある。それは「イラク戦争(2003)」以来「人殺しの国」と自分達で自分達を責め続けているアメリカという国そのものだ。作中の「ヒーローを自称してるけどお前らなんかただのならず者」「ヒーローの隆盛によって争いが増え、一般市民への被害も増えた」「アベンジャーズは公衆の面前でミスを犯した、信頼を回復しないと」等のセリフの全てを「アベンジャーズ=アメリカ」「ヴィラン=悪の枢軸国」「アベンジャーズとヴィランの戦い=戦争」と置き換えると全て筋が通る。
ではこの映画においてトニーは何の象徴なのかという話だが、まずトニーは「①アベンジャーズ(アメリカの象徴)の二大リーダーのうちの一人」だ。それが「➁罪の意識と自信の喪失」を抱えているという事は、トニーは「自信を喪失した迷えるアメリカの象徴」と捉えられる。「お前のせいで一般人が死んでる」と責められて落胆、「所詮暴力しか能のない危険な集団」と図星を突かれて自信喪失、「こんなに責められるならヒーロー(世界の警察)やめて国連の指揮下に就くか」と逡巡する様は正に「自信を失ったアメリカ」そのままの姿だ。
✔ ではトニーとは反対に「ソコヴィア協定」の調印に反対して「何かの下に付くなんて間違ってる、本当の正義が果たせなくなる」と大空言うところの「正論」をかますキャプテン・アメリカは何の象徴なのかと言えば、これは「間違いを犯しつつも自信と自主性を持って誇り高く生きていきたいアメリカ」の象徴だ。キャプテンの「ソコヴィア協定」の調印に反対する意見は全てアメリカという国自体を否定する世論を迎え撃つ時にもそのまま使える物ばかりになっている。
アイアンマンという「自信を喪失したアメリカの象徴」とキャプテン・アメリカという「それでも誇り高く自主性溢れる国でありたいアメリカの象徴」がぶつかり合う構図に本作はなっていて、当然最後に勝った方の主義主張が「アメリカはこうあるべきだ」という監督からのメッセージになるのだが、「ヒーロー=アメリカ」、「ヴィラン=悪の枢軸国」、「ヒーロー対ヴィランの戦い=戦争」と定義付けて描くこのパターンは、実はイラク戦争以降のヒーロー映画で腐るほど繰り返されている。さすがにここまで大掛かりに多数のヒーロー同士が争う映画は他に無いが、各作品のヒーローが辿る末路と監督の主張は結局いつも同じで、つまりそれがこの15年程のアメリカの「世論」という事になるのだろう。
どうでもいい事かも知れないが、自他共に認める映画フリークでいらっしゃる大空スバル様は、映画を観る時にこういう事を考えない。「シビル・ウォー」を観る時に大空が考えていたのは「トニー好き!トニー!!」「正論ばっかでつまんないキャプテンなんかやっちゃって!」だけだ。
映画冒頭で描写されたようにトニーの傲慢な独断によって作られたロボットが誠実で将来有望な青年を殺した事も、それによってその青年の母親が人生の全てを失った事も、彼女がトニーをぶち殺したい気持ちを何とか抑えて静かに抗議するだけに留めたその高潔な精神性も、アベンジャーズの不甲斐なさ故に目を剥いたまま砂埃の中ガレキと一緒に横たわるに至った少女の事も、何も考えていない。こういう悲惨なフリが前作ではなく映画冒頭にあっても「正論うるさい」「トニー好き!」しか考えられない、それが大空という人間の正体だという事を良く覚えておいて欲しい。