【 モンスターハンター 】13点 – 映画批評 –

映像作品



【 ✔ 視聴前チェックポイント】
【①本家「モンスターハンター(MH)」シリーズと噛み合わない世界観】
【➁ディアブロスやリオレウスの挙動を見て「フフッ」となりたい人以外は観る価値なし】


※ネタバレを含みます※


【①モンスター達が高品質なCGで再現されており、挙動がゲーム版そのまま】

【①監督がMHを理解しておらず、C級モンスターパニックのような仕上がり】
【➁導入から世界観の設定、筋書きまで全てが適当】
【③主人公がMH世界の武器を使わず現代兵器でモンスターと戦う】

批評

✔ 「モンスターハンター」はゲームシリーズ「モンスターハンター」を原作とした2020年のアクション映画。監督を映画「バイオハザード」シリーズのポール・W・S・アンダーソンが務め、主演をその妻でありバイオハザードでも主演を務めたミラ・ジョヴォヴィッチが演じる。モンスターハンターはバイオハザードと同じくCAPCOMで製作されており、「CAPCOMといえばアンダーソン・ジョヴォヴィッチ夫妻」という図式が裏で出来上がっている事が窺い知れる。

「日本のゲーム・アニメのハリウッド映画化」と言えば「ハリウッド版ドラゴンボール(2009)」が思い浮かぶが、今回は残念ながらその悪夢が再来した形になる。ハリウッド版「モンスターハンター」はゲーム版をほぼプレイした事のない監督がディアブロスリオレウスの見栄えだけを頼りに作ったC級モンスターアクション映画だ。

冒頭、ミラ・ジョヴォヴィッチを隊長とした6人の米軍チームが砂漠の真ん中で「異世界へのポータル」に飲み込まれ、MHの世界へ転送される(1)。砂漠の地中を泳ぐように移動し、音を頼りに襲い来る巨大な二本角のバケモノから逃げるうちに一人また一人と仲間を失い落ちた穴倉の中で人より一回りも大きな巨大蜘蛛に襲われる。巨大蜘蛛は人間を捕まえ毒針で眠らせ、その体に卵を産み付けるという恐ろしい本能を持っていたのだった(2)。全ての仲間を失いつつも命からがら逃げおおせたジョヴォヴィッチは砂漠をさ迷い歩き、言葉の通じない原住民(ハンター、演:トニー・ジャー)に捕縛される。どうやら害意はなさそうな彼にたまたま持ち合わせた菓子を与えて打ち解ける事に成功した(3)ジョヴォヴィッチは、彼と共にディアブロスを討伐する作戦を立て始める、というのがなんと上映時間半分の筋書きなのだ。ここまでMHの世界特有の大剣やボウガンのような武器はほぼ使用されず、モスやランポスのような初歩的なモンスターの一頭も狩られていない。ネルスキュラ(巨大蜘蛛)とかいう、本家MHの中でも極めてどうでもいい雑魚モンスターから逃げ回るだけのあるあるC級モンスターパニックを観させられるだけである。

上記(1)の「ポータルに飲まれる」という雑な導入は現実の世界に生きる人をMHの世界に移送するという展開自体が難しい為まだ仕方ないかも知れないが、(2)のようなエイリアン的展開や(3)のような、蛮族か動物を手懐けるような描写は監督が過去の映画作品の中から適当に拾い上げて来た思いつきのプロットで、MHの世界観と何の関係もない。MHを少しでもまともにプレイしていればチョコでハンターを手懐けるとか現代兵器でディアブロスに対抗するとか、ネルスキュラみたいなしょうもないモンスターに焦点を当てるとかそんなシーンは絶対に作りたくなくなる筈なのだ。

MHを分かっている監督がその映画版を作った場合、まずディアブロスに仲間全員を気持ち良く全滅させられた後命からがら逃げだした主人公が、空腹に駆られてモスか何かの草食モンスターを狩って飢えを凌ぎ、たまたま出くわした教官的なハンターに武器の作り方や使い方を習ってドスランポスやアオアシラみたいな初級モンスターを倒せるようになる、という辺りまでを上映時間の半分とするだろう。観客は全員MH既プレイに決まっているのだから彼ら全員のプレイ体験に沿うよう脚本を描き、「MHと言えば」なクリーチャーのみを登場させるべきである。ネルスキュラなどあり得ない。ネルスキュラを中盤の山場に持って来て喜ぶMHプレイヤーなどいる筈がない。

ディアブロス、リオレウス、ネルスキュラに続いて監督の琴線に触れたアイルーも登場するが、腰の曲がった老婆程もあるサイズで人間と同じ仕草をするこの生き物は我々の知っているアイルーではない。「ご主人様、狩りの時間ですニャ!」とかこいつは絶対に言わない。アイルーに対して萌えているミラ・ジョヴォヴィッチは正直可愛いが、ここでも監督の勉強不足・原作への不敬が露になる。

✔ でか過ぎるアイルー

MHで大型モンスターと戦う時の醍醐味は狩猟対象に張り付き噛み付きや尻尾薙ぎ払いのような即死級の攻撃を既の所で躱しつつ、羽や尻尾のような部位破壊を狙ってチクチク削りながらも時にはタイミングを読んで頭や腹部のような急所を狙うという、焦らずコツコツと丁寧に積み上げるような立ち回りにある。本作では本編後半に入ってやっとディアブロスとの戦闘か、となっても大剣を一発でディアブロスの頭に突き立て、それをグリグリやる事で倒すというお行儀の悪いバトルが披露される。ディアブロスと言えば発達した聴覚を逆手にとって音爆弾でスタンさせてタコ殴り、リオレウスなら飛び回って攻撃を当てられない厄介さを散々味わった後に閃光玉で墜落させて僥倖、というのが当然の流れだろう。監督はゲームをプレイしていないどころかプレイ経験のあるスタッフに対して聞き取り調査をする事すらしていないのだ。どうしてもガトリング銃やRPG、戦闘ヘリ等で飛竜を倒す画を撮りたい監督はリオレウスとの戦闘シーンの大部分を現実世界に移動させた後に展開している。現代兵器でMHの大型モンスターと戦うというのはそれはそれで浪漫があるかも知れないが、やるにしてもMH然とした戦闘を十二分に描いた後にするべきだろう。

✔ 映画版「モンスターハンター」は原作を一切理解していない監督が思いつきのプロットを多分に盛り込んで作ったC級モンスターアクション映画だ。高品質なCGで再現されたディアブロスやリオレウスは挙動まで本家とそっくりで一見の価値はあるが、映画自体は原作やプレイヤーに対する不敬の温床で、全く観る価値はない。主人公の使用武器は現代兵器とスリンガー、双剣の鬼人化は草食動物の群れを追い払う時に松明のようにして使うだけ、という無茶苦茶な世界観はハリウッド版ドラゴンボールに勝るとも劣らずだ。ストーリー部分は全部スキップして、大型モンスターが登場するシーンだけをチェックする形で視聴しよう。



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