【 ✔ 視聴前チェックポイント】
【①「MCUに多次元を導入する為の作品」という説明で満足出来ない人だけ観よう】
【➁TVAという、タイムパトロール隊的な進出組織のディテールを楽しもう】
【③MCUで初めて多次元宇宙に触れる作品】
※ネタバレを含みます※
【①TVAという進出組織のレトロでポップなビジュアル】
【➁こだわりのアクションシーン。鋭く、リアル志向。VFXも大作映画並】
【③本作独自の進出キャラ達が魅力的。個性豊かな多次元版ロキ(変異体)にも注目】
【④MCU本編と違った誠実で真面目なロキに注目】
【①最重要キャストであるヒロインがミスキャスト。映っている画が常に安っぽい】
【➁シリーズ中盤以降ストーリーがつまらない。進行が緩慢で退屈。どうでもいい話が多い】
【③主人公として役者不足なロキを念動力等を使えるように強化しており、キャラがブレている】
【④念願のレディ・シフが登場するも扱いが極めて悪い。絶対に許さない】
✔ 「ロキ」はMCU(マーベルコミックを原作とする映画シリーズ)のスピンオフ作品で、「マイティ・ソー」シリーズのロキを主役に据えた物。MCU本編のロキは「インフィニティ・ウォー(2018)」で死亡しているが、「エンドゲーム(2019)」で四次元キューブの力を使いアベンジャーズから逃れたロキはまだ生きており、そちらが本作の主人公となる。
多次元を舞台にストーリーを展開させるのはマーベルではよくある事だがMCUで明確に多次元宇宙について触れるのはこの「ロキ」が初めてだ。多次元モノは決まって本筋のストーリーのスケールが大きくなり過ぎて先に展開させようが無くなった時に作られる。MCUも宇宙規模の戦いを描いた「エンドゲーム」以後は多次元宇宙を前提とした作品を展開させていくようだ。
先に言っておくと本作は「これからMCUに多次元宇宙を取り入れていきますよ」と宣言する為にあるような作品で、それ以上の視聴価値は基本的にない。かなりのMCUオタクでも楽しめない作品になっているのでその点はご注意を。
「エンドゲーム」でアベンジャーズの面々が時間旅行をした影響で、ニューヨーク侵攻に失敗して連行される寸前だったロキは逃亡に成功する。見知らぬ土地にワープしたロキの前に「時間変異取締局(TVA)」を名乗る部隊が現れ、ロキは再度捕らわれの身になる。「神聖時間軸を守る事」を信条とする彼らの正体とは一体、そして抹消対象に指定されてしまったロキの命運やいかに…!?という導入。
ロキが主人公という時点でほとんどの人にとって相当引きのない作品だと思うが、それでもこれまでMCUで触れられなかった多次元の概念や、それを管理するタイムパトロール隊みたいな組織の登場、そのディテールの作り込みによってシリーズの導入部分はなかなかに斬新で刺激的だ。「時間旅行によって所謂バタフライ・エフェクトを起こそうとする存在を取り締まるタイムパトロール隊みたいな集団」という概念は既視感も十分で取っ付き易く、物語の設定自体は悪くない。
「シャンハイ・ヌーン(2000)」や「ナイト ミュージアム(2006)」でお馴染みオーウェン・ウィルソンがこれまでと全く違った出で立ちで出演しており、金髪ベビーフェイスのイケメン君もとうとうジジィの役をやらされるようになったか、と感慨にふけりそうになるが平時の彼は昔と対して変わっていない。元気でやっているようで何よりである。
多次元モノと言えば「いろんな世界の〇〇マン」といった形で主人公の亜種が複数登場するのがお決まりだが、本作もご多分に漏れずロキの亜種が登場する。物語の鍵を握りヒロインでもある女性版のロキが本作の最重要人物だが、これを演じる女優に関しては完全にミスキャスティングだ。この女性版ロキは一人でTVAという組織を相手取り魔術と策、機敏な体術で一人孤独に戦う、という設定だが演じる女優はビジュアル的にせいぜいマイナー海外ドラマの3~5番手ぐらいしか務められないようなパッとしない中年女性で、凛として勝気な演技をしてみてもヒステリックで身勝手なおばさんにしか見えない。衣装も「ロキの亜種」に見合うようしつらえてあるが主婦が頑張ってコスプレしているような出で立ちで、全く映えない。何故こんなマイナーな女優が仮にも巨大映画シリーズであるMCU作品の重要なポストに就けたのか全く分からないが、このドラマがダサく安っぽく、華のない作品になっている一番大きな原因は彼女の存在のせいではないかと思う。重要なキャラなので終始出ずっぱりだが、彼女が何をやってもとにかく映えず、面白味が無い。
MCUのみならず映画のトレンドは女性推し、黒人推しである。本作の一つ前のMCUドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー(2021)」は黒人ヒーローがアメリカの象徴になる話、その一つ前の「ワンダヴィジョン(2021)」は強すぎる女性が全てを支配する物語だ。「ロキ」もそれに倣って「強すぎる女性、女性版ロキ」が登場している訳だが情緒不安定で態度も悪く、極めて個人的な動機と感情で身勝手に動いて状況を悪化させ、連れ合いであるロキに迷惑をかけ続ける彼女を見て「女性って強い!女性って魅力的!」と思う者はいまい。流行りに乗ってみたはいいが女性元来の魅力になど目を向けた事のない監督が女性を立てようとして逆に下げている、という作品は近年本当に多い。本作も反射的に「女って本当に嫌だな」と思わされる残念な作りになっている。
大体ロキとほぼ何の共通点もない女性を「ロキの変異体(亜種)」と設定する事にそもそも無理がある。シリーズ中盤からロキと差別化する為に彼女は「シルヴィ」と呼ばれ始めるがそうなるといよいよロキと関連性が無くなる。設定はまだしも脚本を組み立てる段階から相当雑な仕事をしていたのではないだろうか。
「ワンダヴィジョン」はシリーズ終盤以外、「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」はシリーズ序盤と終盤に結構な見所が配置されていたが、本作は序盤の導入以外とにかくつまらない。「MCUに今後多次元宇宙を取り入れていく為のきっかけの出来事を描く作品」という説明だけでは足りない、というMCUファンだけに視聴をお勧めしたい。