【 ホワット・イフ…?/What If…? 】24点 – 批評 – 後編

海外アニメ



※ネタバレを含みます



前編はこちら↓


【第5話「もしも…ゾンビが出たら?」】19点
 世界中がゾンビに侵され、アベンジャーズの主要メンバー達さえもゾンビ化して生存者を襲い始める、というストーリー。全エピソードの中でも飛び抜けて荒唐無稽な為、若干ギャグテイスト気味に展開していく。

このエピソードのゾンビ達は明確に思考力を持っていて、ゾンビ版のヒーロー達は人間だった頃用いていた特殊能力を駆使して生存者に襲い掛かる。言葉を話さない事と見た目が崩れている事を除けばヒーローゾンビ達は平時と変わらないので、見方によっては両陣営のメンバーを入れ替えた「シビルウォー(2016)」のようにも見える。

ぶっ飛んだ企画でギャグテイストを採用するのはいいと思うのだが、本エピソードの場合ギャグアニメの雰囲気を作り切れておらず、仲間が死ぬ度にボケているのかボケていないのか分からない微妙なギャグを入れ込む生存者チームの面々は仲間の死を何とも思わないクズにしか見えない。大量のゾンビが大暴れする迫力の描写や特殊能力を存分に発揮して活躍するワスプ等見所はあるが全体的には終始微妙な空気のまま進行していく。

このエピソードでもハッピーやアントマンの友達等どうでもいいサブキャラにスポットが当たっており、製作側のメタネタアピールにうんざりさせられる。マイケル・ペーニャですらないアントマンの友達が前に出て来て喜ぶマーベルファンなんか一体どこにいるのか。「カート」という名前のこのキャラを演じているのは「ダークナイト(2008)」や「スーサイドスクワッド2(2021)」で印象的な役を演じていた役者なので喜ぶのはどちらかと言えばDCファンだろう。由々しき事態である。

ラスボス的な位置づけのゾンビ・スカーレットウィッチにしても私的には「ワンダヴィジョン」で狂気の大暴走を見せた彼女の方が余程恐ろしい。本作の中ではマシな部類のエピソードだが決して面白いとは言えない、そんな出来である。



【第6話「もしも…キルモンガーがトニー・スタークを救ったら?」】9点
 アイアンマンシリーズ第一作「アイアンマン(2008)」の序盤でトニーがテロリストに連れ去られる所をキルモンガーが阻止し、トニーの右腕として取り立てられていくが実はその胸の内には恐ろしい企みがあり・・というエピソード。テロリストに幽閉されなかったトニーはアーマーを作らずアイアンマンが生まれる未来は消滅し、代わりにキルモンガーにそそのかされ「アイアンマン2(2010)」で登場したハマー・ドローンのようなロボット兵器を開発する。

映画「ブラックパンサー(2018)」のメインヴィラン「キルモンガー」が主人公のエピソードだが、このチョイスもまた微妙な所である。鬱陶しいナルシズムと卑劣な策略でネチネチと立ち回るキャラクターを主人公にしたこのエピソードはトニーやワカンダ王室等好感度の高いキャラが一方的に虐げられる展開で構成されており、視聴する上で不快指数が非常に高い。

ブラックパンサーのコピーのようなパッとしないヴィランをわざわざ主人公に採用したのは本シリーズ第2話と同じで「黒人を主人公に」という流行りを意識しての事だろう。やはり第2話と同じで流行りに乗ったはいいが物語としての面白さはほとんどない。



【第7話「もしも…ソーがひとりっ子だったら?」】 76点
 ソーの父オーディンがロキを我が子として育てず実の親の元に返し、一人っ子として安穏とした環境で育てられたソーはパーティー好きのチャラ男に育ち・・というギャグエピソード。金持ちのぼんぼんのように育ったソーは「ガーディアンズ」シリーズやソー三部作に登場した多種多様な宇宙人を率いて地球を訪れ、災害レベルのパーティを巻き起こす。

「一人っ子だからチャラ男になった」という理屈はよく分からないがこのエピソードはシンプルに面白い。突き抜けたギャグをテンポよく連打する展開は他エピソードの体たらくが嘘のように完成度が高く、普通に笑える。アニメになってはいるがヒロインのジェーンやその助手ダーシーのキャラはMCU版そのままで、本家ソーシリーズの拡張作品としてはこれ以上無い仕上がりだ。

オリジナルとは性格や雰囲気の違うソー相手でも同じように恋心を抱いてしまうジェーンはとても可愛らしく、微笑ましい。「マイティ・ソー(2011)」で見せた純粋で初々しい恋愛の雰囲気がそのまま再現されているのはファンサービス以外の何物でもない。他のエピソードでもどうでもいいメタネタや雑コラみたいな改変キャラを入れ込むのではなく、こういった方向性のアプローチがされていればどんなにいいシリーズになった事か。

地球を荒らす「パーティー・ソー」に対処すべくキャプテン・マーベルが呼び出されるが、アベンジャーズ最強クラスの戦闘力を誇る両雄の本気の殴り合いを高品質なアニメで描写する中盤の山場は大迫力で、正直シーズン最後の大ボス戦より見応えがある。コアなファンなら「ムジョルニアを装備しているソー」とキャプテン・マーベルが戦うとどちらに軍配が上がるかはすぐ分かると思うが、それでも「アベンジャーズ最強決定戦」とも呼べる戦いは超必見だ。

しかし最近のアメリカ産のアニメ作品はこれまでと打って変わってライトなタッチでポップに展開する物が増えた。キャラクターの線もみるみる細くなり、まるで日本のセカイ系アニメのようだ。同じマーベル系列のアニメ作品「スパイダーバース(2018)」でもセカイ系アニメをパロディしている部分があり、海外のアニメ作品は今後日本の物に作風が似てくるのかも知れない。それは少々嬉しく誇らしい事ではあるが、アメリカのアニメ特有のコテコテな作風が見られなくなるかも、と思うとそれはそれで寂しい気持ちにもなる。



【第8話「もしも…ウルトロンが勝ったら?」】12点
 アベンジャーズ第二作目「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015)」のメインヴィランウルトロンがアベンジャーズに阻止される事なくヴィジョンの体を手に入れていたとしたら・・?という筋書き。MCUのラスボスサノスすら瞬殺する強キャラとなったウルトロンは宇宙はおろか他の次元にまで手を伸ばし始める。

シリーズ最終局面の前編に当たるエピソード。ヴィジョンの体を手に入れウルトロンデザインの鎧を纏ったインフィニティ・ウルトロンは本家MCUを含めても圧倒的に最強のヴィランであり、サノスを倒してインフィニティ・ストーンをコンプリートした事で本来ウォッチャーにしか許されない次元と次元を行き来する能力まで手に入れている。

ストーリーは他エピソードと同じくひねりがなく面白いとは言えないが、インフィニティ・ウルトロンのデザインはすごくいい。どう見ても強キャラな出で立ちはMCUファンの全男の子大歓喜間違いなしだろう。

次元の壁を破って襲い掛かるウルトロンに対してサノスを上回る戦闘力で応戦するウォッチャーだが、ここも恐らく誰も喜ばないシーンだろう。ウォッチャーというのは制作側の強引な作品作りの良い訳を請け負ってくれているだけのキャラで、取り立てて彼を好きなマーベルファンなんてどこにもいない。小柄な体でよく動いているが戦闘シーンに迫力はないし、平時のキャラとあまりにかけ離れた躍動ぶりにどう反応していいのか困ってしまう。



【第9話「もしも…ウォッチャーが誓いを破ったら?」】15点
 シリーズ最終話。全次元の宇宙を滅ぼさんとするインフィニティ・ウルトロンに対抗すべく、ウォッチャーは様々な次元からヒーローを選抜して「多次元版アベンジャーズ」を結成する。

8話以前のエピソードで登場したヒーロー達を結集して戦うストーリーで、これまでのエピソードはこの最終局面への前フリとして作られていた事が分かる。集められたメンバーは「キャプテン・カーター」「スターロード・ティチャラ」「闇堕ちドクター・ストレンジ」「キルモンガー」「パーティー・ソー」「サノスの装備を身に付けたガモーラ」「ブラック・ウィドウ」だがMCUを最後まで視聴した今見ると本当にしょぼい面々で、全く盛り上がらない。足りない戦闘力を闇堕ちストレンジが「魔術で作った見えない鎧」を皆に付与する事で補うというあまりにもなご都合主義を見ると「そんなに面倒臭いならもうやめていいよ」と脚本家にタオルを投げてやりたい気持ちになる。

私としてはキャプテン・マーベルを方々の次元から100人ぐらい召喚してウルトロンをフルボッコにする画が見たかったが、ウォッチャーにはウルトロンからインフィニティ・ストーンを引き剝がす為の策があり、その為のコマとして適役であるメンバーを選抜したという事らしい。周りくどい詰将棋みたいな戦い方を選び、自分に縛りを課すように弱キャラばかり、それも時勢に配慮して黒人や女性を多めに招集した様子を見るとまだ精神的にだいぶ余裕があったようである。

紆余曲折あって最終局面はアーニム・ゾラ対キルモンガーでかめはめ派のぶつけ合いみたいな事をして幕を閉じるが、こんな誰の眼中にもないキャラ同士の対決をラストバトルに持って来て一体誰が喜ぶのか。マニア向けのメタネタを意識する余り作品としての面白さを追求する事を忘れてしまった製作陣は最終的に行く所まで行ってしまったのだ。

見所として唯一挙げられるのはエンドロール直前のシーンで、キャプテン・カーターが半身を光に包まれながら「(スティーブなしでは)ハッピーエンドにできない」と発するシーンはMCU中結局ペギーへの想いを断ち切る事の出来なかったスティーブへのアンサーシーンのようになっており、不覚にもこみ上げる物がある。精神的・肉体的にこんなにも強い二人がお互いへの想いを捨てきれず、後ろ向きとも取れる決断を下す様子には人間らしい情や弱さ滲み出ていて、だからこそ胸を打たれる。弱さや未練がましさを美しく描写することでそれでもいいんだ、悪い事じゃないんだ、と思わせるこの部分のプロットは非常によく出来ている。



【 まとめ 】
 MCUの拡張作品【ホワット・イフ…?】は「コアなファン=メタネタが好き」という勘違いと共に製作され、企画やストーリー部分の面白さが追求されなかった残念なアニメシリーズだ。いかにコアなファンでも結局アイアンマンやキャプテン・アメリカのようなメインキャラクターが好きなのだ。彼らの出代を奪って存在自体忘れかけていたマイナーキャラ達が活躍する展開など誰も喜ばないだろう。MCUからドロップアウトしてしまい、今後実写化の可能性に乏しいメインキャラ達の拡張ストーリーを作成する事こそ真のファンサービスだと気づいて欲しかったものだ。

きらびやかでヌルヌル動くアニメーションは世界的に見ても最先端で最高品質だが、肝心のストーリー部分は「第3話」「第7話」以外どれも酷く、MCUファンにすら勧められない。視聴の際はMCUとは少し様子の違うキャラ達の姿を確認する程度の気持ちで臨もう。

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