
「お早うございます、お嬢ちゃま」
「うん、おあょ」
演舞場にむかう途中、いろんなひとに出会います。
うちは広いから。
いまのはばぁや2。
5か6ぐらいまでいるときおくしています、確か。
そのくらいうちは広くて、お金持ちです。
「オンッ!!」
「あ、もたぁーき」
つばきがいなくなったのをかくにんした上で
もとあきが出てきました。
もとあきはつばきが嫌いです。
つばきももとあきが嫌いです。
両想いというやつです。
でもうちはもも以外みぃーんな
もとあきのことが嫌いだから
モッテモテの
モテ男なんですぅ、
もとあきは。
「オンッ!!」
「もたぁーき、」「今から演舞場いくよ」
「オンッ!!」
「おん、じゃない」「いぬはきちゃダメなの、演舞場は」
「オンッ!!」
「もぉー、」「ダメだなぁオマエは」「よちよちぃ」
ももはもとあきが好きです。
ももよりバカだから。
ももは生まれてこのかた、
このお家でずっとバカあつかいされてきました。
食べ物をこぼせば口もとをふかれ
朝は服を着がえさせられ
おもちゃを欲しいとねだれば買いあたえられ
耐えがたきくつじょく………
許しがたきちじょく、
ばんこう………
この家はのろわれている………!!!!
「オンッ!!」
だから、ももはもとあきを飼いました。
今、ももはこの家で一番のバカではありません。
もとあきです、
一番のバカは。
「ん~、よちよちぃ」「バカだねぇオマエはぁ~」
「オンッ!!」
芸だってしこみました。
見ていてください。
「もたぁーき、いくよ?」
「オンッ!!」
「もとあき、今日の天気は?」
〝ピッ〟〝ピピッ〟〝ピーッ〟〝ガシャ〟
「……………………」
〝ウィッ〟〝ウィーッ〟〝ガシャ〟
「……………………」
〝ヴィッ〟〝ヴィヴィッ〟〝ヴィーッ〟〝ガシャ〟
ろーどが長いのが、
たまにキズです。
「おはようございます、ももお嬢様」
「うん」
「今日の天気は、晴れ」「昼ごろから曇り、のち晴れ」
「うんうん」
どう体からアンテナが伸びて
バイザーみたいなのをそーちゃくして
イケてるヒーローみたくなったもとあきが
今日のてんきをおせーてくれます。
「湿度は53%」
「しつど?」
「はい、今日の湿度は53%」
「ってなに?」
「はい、なんでしょう、ももお嬢様」
「もとあき、しつどってなに?」
「はい、ももお嬢様、説明させていただきます」
「うんうん」
「湿度とは、空気中に含まれる水蒸気の割合………」
「もとあき」
「はい、なんでしょう、ももお嬢様」
「すいじょーきって?」
「はい、ももお嬢様、説明させていただきます」
「うん」
「水蒸気とは、水が蒸発して気体になったもので………」
「じょーはつ?」
「はい、なんでしょう、ももお嬢様」
「もとあき、じょーはつって………」
「もーもっ!」「ももっ!」
ゲェッ
「ももっ」「何をしているのですか、そこで」
演舞場のほうから、ママの声がします。
「ももっ」「時間はとっくに過ぎていますよ」
「………はぁーい」
演舞場のとぐちのところから体をはんぶんだして
ほそながい手をふっています。
ママは、〝はじとがいぶん〟をめちゃめちゃ気にします。
今みたくばぁやが何人も外にいるばあいは、
こんな感じで
めい家のき婦人ふうのしゃべりかたをします。
「もーもっ」「早くこっちへいらっしゃい」
でも、みんな家に帰って部屋でももとふたりきりになると
とたんにオギャります。
そういうとこが
「………はぁーい」
けっこう嫌いです。
しゃあなしで、
演舞場にむかうことにしました。

