
「もーもっ」
「………あぃ」
「お母さん、昨日なんて言いましたか」
「………あぃ」
「朝8時半って言ったわよ」「今何時?」
「え、」
ヤーバいバい
演舞場のかべにあるとけいにせなかをむけて
もとあきにたずねます。
「もたぁーき、今なんじ………」
「もーもっ」
「………あぃ」
「犬は演舞場に入れちゃダメって何度も言ってるわよ」
「あ、ワァ」「いつの間に」
「いつの間にじゃないでしょ」「連れて来たでしょ、今」
「………あぃ」
ももは、分かっています。
ママはももに小言をいうのが楽しいのです。
ママやってるぅーって
バカなやつしかってるぅーって
そういうやつが
気持ちがいいのです。
「ごめんなさぃ、ママ………」
「まっ!」「ももちゃん!」
「ひゃ、ひゃぃ」
「演舞場ではママって呼んじゃダメって言ってるでしょ」
「はぅ………」
「何て言うの?」
「………お、」「お母ぁーたま」
「あっ!」「まっ!もうっ!」「ももちゃん!」
〝ドンッ〟とひざでもものそばに着地して
ももの腰と背中をギュッと抱き寄せます
「ヒッ」「ヒィッ」
「ももちゃんっ」
「ひゃぃっ」
「お、」「母ぁーぁ様」「よ」「ももちゃん」
「ひやぅぅ………」
ひとさし指でくちびるをちょぃちょぃちょぃとやられます
「言ってごらんなさいこの小ちゃなお口で一生懸命に」「さぁホラはい」「お?」「お?」
「お、おお、お、」
「うん?」「うん?」
「おたぁー………」
「うん」
「たま」
「あっ!」「まぁっ!」「もうっ!」「ももちゃんっ!!」
「ひぃぃっ」「ひっ」
バケモンです、もうほとんど
「ももちゃんっもうっ!!」「ももちゃんはなんにもできないっ!!」
「ひぃぃ………」
めきめきめき、と
抱きしめられました。
痛いです。
痛いというより
こわいです。
〝パキッ〟と
おたぁーたまのひじかんせつが
鳴りました。
「ももちゃん、あなたはもう本当にいつになったら」「もうどうしてこんなにもう………」
「ヒ、」「ヒー………」「ヒー………」
ももはきょくどのきんちょうかんの中で
自分にいい聞かせます。
「(しげきするなぁー………)」「(しげきしたらぁ………)」
「ヒー………」
「(しげきしたらしぬどー………)」
「オンッ!!」「オンッ!!」
飼い主のきけんをさっちしたもたぁーきが
おたぁーぱんに向かってほえかかります。
「オンッ!!」「オンッ!!」
「(もたぁーき………)」
「シッ!犬!」「シッ!」「衝!!」
〝ドンッ〟と、もとあきの足元に
ママが威嚇〝衝〟を撃ちました。
「ギャィンッ」「ギャンッ」
もとあきは
演舞場のそとまで狂ったように走っていきました。
「(雑詠唱………)」「(ももがやったら死ぬほどキレるくせに………)」
「ももちゃん………」
「………あぃぃ」
おたんぴんは
泣いていました。
めきめきめき、と
しめつける腕にさらに力が入ります。
「ももちゃん、どーしてなの」
「あぃぃ………」
「どうしていつまで経っても何も出来ないの」
「あ、ご、おご、」「ごべんばばい」
「ママね、三人いる子の中で」
「あ゛ぃっ」
「ももが一番可愛いの」
「あ゛っぐゥっ」「う゛っ」「ぐるっ」
まだ力が入ります。
骨・肉・関節・内臓・筋
そのすべてに
けっして負担がかからないように
痛めないように
でも
ぜったいに逃げられない力で
ぎりぎりとしめつけてきます。
「おっぐ」「お゛っ」
「それで甘やかし過ぎちゃったのかも」「ごめんなさいねぇぇ、」「もも………」
「あ゛っも゛うっ」「あ゛っ」「も゛うっだいじょ………」
「もも」
「あ゛ぃっ」
「時計を見て」
ママがももにさば折りをかけたままの右手のひとさし指で
自分のかたごしにとけいをちょぃちょぃと指さします。
「あ゛っ」
「何時?今」
「ぐぇっ」「ぐっ」「え゛、え゛ーっど」
きょくげんじょうたいの中、きゅうきょくに頭を回します。
「(え、えーっと………)」「(えと………)」
ギリギリギリギリィ………
メギメギメギメギィ………
「(短いはりが12のちょっと前にあって)」「(長いのが)」
「もも?」
「あ゛ぃっ!!」
「早く」
「あ゛ぃっ!!」「あ゛っ!!」
「そんなに時間かからない」
「あ゛っ!!」
「(ひだり下の、けっこういいとこにあるから………)」「12じっ!!」
「ん?」
「12じっ!!」「33ぷんっ!!」
「……………………」
メキメキメキメキィ………!!!!
「あ゛っ!!」「う゛っ!!」「く゛っ!!」「よんじゅぅ………」「よんじゅういっぷんっ!!」
ふいに〝パッ〟と手がはなされ、
こんどはつばきが結ってくれたツインテのねもとを両手でかかえこんで
「ももっ!!」「ももっ!!」「好きっ!!」「んゥーーーーー」
顔に顔をべちゃっとタックルされました。
「んっぶゥ!!!!」
「ももぉーーーーーー!!!!」「ちゅきちゅきちゅきちゅき」「チュッチュッチュッチュッ」
そのままずりずりべちゃべちゃやられます。
「ブベベベベ」「ブババババボベ」
「あっ!!」「好きっ!!」「もうっ!!」「んっ!!」「ももっ!!」「好きっ!!」
「ブボゴォ」「ブボッ」「ガハッ」
「あっ!!」「もうっ!!」「美味しいっ!!」「ももっ好きっ!!」「美味しいわっ!!」
ママは、このこういを
数日に一回のペースで
発作のようにとつぜん
おこないます。
本人はこのぎしきを
〝ももの天然吸い〟と
よんでいます。
「あぁっ!!」「もうっ!!」「ずっとこのままならいいのに!!」
「グハァッ」「ベッ」「ブッ」「ブオオゥ……」
〝の天然〟がなぜつくのかは
分かりません。
「ハァ……」「ハァ……」「ももォ……」
「……………………グハッ」
ママは、いじょう者です。
小さいももにも、さすがに分かります。
「もも………」
「………ヒィ、」「ヒィィ………」
「ももぉーーーーーー!!!!」
〝ドンッ〟と
床に押したおされました。
「ギャッ」
「んゥーーーーー」「ちゅきちゅきちゅきちゅき」「もももももももももも」
「ギィィィィィィィィーーーーー!!!!!」
いぜん、
ばあや何号かがママにきいてました。
〝奥様、ほんとお若いですわ〟
〝若さのヒケツは何ですの〟
って。
そしたらママは、
〝娘を吸うことよ〟って
言っていました。
「んマッんマッ」「ああもう本当産んでよかった」「一番産んでよかったわ」
「ンベッ」「ベェッ」「カッ」
またべつのばあや何号かがきいてました。
〝奥様、こんなにお屋敷お広いですのに〟
〝動物などお飼いになりませんの?〟
って。
そしたらママは
〝いいの、うちにはももがいるから〟って
言っていました。
「あぁもうっ」「嫌そうな顔!!」「苦しそうな顔!!」
「………グ、」「ゴ」「ゴ」「ゴヒャク………」
「小っちゃなお口で!!」「小っちゃなお鼻で!!」「可愛い!!」「可愛過ぎるわもも!!」
「ゴヒャク、ゴジュウキュウ………」「ゴヒャク、ゴジュウ、ニ………」
「んゥーーーーー」「もももももももももも」
「ギヤアアアアアアアーーーーー!!!!!」
ももは、
ママにさからえません。
やしなってもらっているから。
5どね6どねが当たり前のかいてきな日々を守るために
ももはこの身をさし出します。
……………………………
……………………………
……………………………大変なのです。
小さいなら、
小さいなりに。

