
「もも」
「今日は、あのー」「あの、」「もういい」
「…………………」
「見そこなったよ、ママ」「じぶゅんの、」「あの」
「…………………」
「じぶんの」「わが身かわいさにあんな」「鬼道をぐろうするようなこと」
「…………………」
「するなんて」「あの、」「もう」
「…………………」
「もう、」「かえりましゅ、今日は」「帰ってあの、」
「…………………」
「ねましゅ」「さいなら」
演舞場の板の間を〝ダンッ〟とならして立ち上がり、
出口に向かいました。
「もも」
「…………………」
出口までは、
もくさんで15歩のきょり。
逃げきれる、このまま
走りさえしなければこのまま
「もも」
ママがももの背に向かってよびかけます。
「(振り返るなぁ………)」「(今日はこのまま逃げきって)」
「縛道の一の二、」「連塞」
〝ビキッ〟〝ビキビキッ〟
「!!!!?」
〝ドタンッ〟
「ギャッ!!!」
次の瞬間、
板の間につっぷしていました。
りょう手がうしろ手に縛るようにこていされ、
りょう足もどうようです。
まったくみうごきがとれません。
「ママ゛っ!!」「いだいっ!!」
「……………逃げようったって、」「そうはいかないのよ」
ママは鬼道指揮を〝ピシッ〟〝ピシッ〟と
ムチのように左のてのひらに打ちつけながら
ももちゃんに歩みよってきます。
「マ゛ーマ゛っ」「いだぃーー」「バガぁーーー」
「ももちゃん」
「ひとでなしぃ!!」「じつの子にガチ縛道をかけるなんでぇ」
「痛くないでしょう」「徹鉄塊で守ったの、見たわよ」
「………オ゛、」「オ゛ォーーーーーーー(泣」
からだじゃない!!
心がいたいんじゃ!!
ぼげ!!
「マ゛ーマ゛!!」「解いでぇ!!」
「ちゃんとやる?」
「オ゛ォーーーー(泣」
「秘匿鬼祇術、ちゃんとやる?」
「オ゛ッ」「オ゛ッ」
「ももちゃん」
「嫌っ!!!」「嫌っ!!!」「や゛んな゛い!!!!」
ももも、
ももだって、
鬼道をアイしています。
だから、
できません。
「やんないと終わんないわよ、」「今日は」
「嫌ァーーーーーー!!!!!!」
「せっつかれてるのよ、ママも」「今日やれって」「なんでか知らないけど」
鬼道は、ゆうびなものです。
みやびなものです。
おごそかで、
けだかきものです。
さい小の力でさい大のこう力を、
りちの力でごうゆうをせいす、
そんなスマートな美しさこそが
鬼道です。
それを、あんな
〝に゛ぇ!!!〟とかいう、
あんな……………!!!!!!
「ももちゃん、」
「バカ!!!」「ママ!!!」「や゛んな゛い!!!!」
あんなキチ〇イ健康体操みたいなやつ…………!!!!!!
「ももちゃん、あんまりだだこねてると」
「オ゛ッ」「オ゛ォーーーー(泣」「オ゛ッ」
できません、ももには
死んでも。
出せません、人前であんな
〝に゛ぇ!!!!〟とかいう
カエルをひき殺したみたいな
きンもい奇声。
ももにははっせられません。
だからもう絶対に、
やりません。
恥というものがありますから、
ももにだって。
だから
終わりです、秘匿鬼祇術は
ももの代で。
残しません、
こうせいには。
「出すわよ?」
「オ゛ッ」「オ゛グッ!!」「っオ゛ーーーー(泣」
「社会に」
ピタリ。
「…………………」
「いいの?お家で悠々自適に過ごす日々」「無くなっても」
「…………………」
「独り暮らしよ?」「炊事洗濯、一人でやんないとなんない」
「…………………」
「働きにも行かなきゃなんないから、当然」「5度寝6度寝で昼過ぎに起きてくる、なんて到底無理よ」「どう?できる?」
「…………………」
「ん?」「ももちゃん」
………………………
………………………
………………………嘘だ。ママはなんだかんだでもものことアイしてるから、
ももを外にやるなんてできない。
〝ももの天然吸い〟だって、
できなくなるもん。
あれがないと
シワクチャのばばになっちゃうから。
嘘だ。
もものことを言いなりにしたくて
嘘をついているんだ。
「嘘じゃん」
「ん?」
「そんなん、」「嘘だよ」「こわくないもん」
「あら、見破っちゃう?」
「うん、」「ママのばか」「こわくないもん」
「あらぁ、ももちゃん」
「ばか」「どくおや」
「かしこくなってぇ~、」「ママうれしいわ」
「はやく解け、」「塞」
「じゃぁ、」
「この、」「ぎゃくたいはは」
「半分出てみる?」
ピタリ。
「…………………」
「どう?」
「…………………半分、」
「うん」
「ちょわ?」
「働きに行くのよ」
ビックゥ
「…………………」
「実家住まいは継続して、」「働きに行くのよ」「つまりつばきと同じことよ」
「…………………」
「ママの紹介で公営鬼道部隊に配属でもいいけど」「流しでもいいわよ」
「…………………」
「それか、」「…………フッ笑」
「…………………」
人でなしや
こいつ
「一般職にでも就いてみる?笑」「社不のももちゃんが笑」
「…………………」
「〝はじめてのおつかい〟もまだしたことのない」「ももちゃんが笑」
「…………………」
ももは、
まだ一人でお外にお出かけしたことがありません。
迷うから。
…………………
…………………
…………………や、
多分、意外と迷いはしない。
もうけっこういい年ですし、
こう見えて。
でも、あえてそのリスクをおかしてまで
ひとりでお外に出るひつようがないといいますか。
べつに用ないし、外に
総滅のおやしきはめちゃめちゃ広いし、
かなりなんでもあるし。
なくても、
ばあやズをくしすれば
何でも手に入る、
びょうで。
…………………
…………………
…………………それいじょうに、
人がこわい。
ももは。
変なんだもん、お外の人、みんな。
小学舎もいったことあるけど
みんな変だった、
ももいがい。
なにいってるか分かんなかったもん、
ぜんいん。
あほみたいだった、
みんな。
とくに男子。
「ばぁや達がもものこと最近なんて呼んでるか知ってる?」
「…………………」
「〝歩ける赤ちゃん〟よ笑」
「…………………」
「みんなもものこと遠巻きに見て言ってるわ」「〝まるで赤ちゃんが歩いているよう〟って笑」
「…………………」
「どうするぅ?〝歩ける赤ちゃん〟」「お外出て、働いてみるぅ?笑」
「…………………」
「割とマジでパパとも話しあってるの」「もももいい加減半分ぐらいは外に出した方がいいんじゃないかって」
「……………!!!!?」
パパ
あいっちゅ、
ふじゃっけんなマジ
おぼえてろォ、あとで………
「お母様」
「なぁに?ももちゃん」
「やらちぇてくらたい」
「ん?」
〝ズビッ〟と、
はなをすする。
「やらちぇて、くらたい」「秘匿鬼祇術」

