
総滅のお屋敷は、全かおく和風のつくりです。
そこに住むわれわれも、こうして今日のように道着を着たり
ぞーりを履いたりして、
和装で統一して過ごしています。
でも現代のりきまで排除しているわけでは
決して、
にゃい!!!!!
イオン式車両は屋敷のうらての
車庫にしまってあります。
全部で七台。
けーかんを
こわさないように、
しまってあります。
ももはしてないけど、
パパとママは
頭蓋埋没式メモリーを埋めているので
はなれていてもそれで
通信することが、
できます。
ママは現代さいきょーの鬼道師の一人ですが、
中でも縛道が
大のとくいです。
つまり、
単体空羅でも
天挺空羅でも
使いたいほーだい、
です。
しかもせいどもめっちゃ高いから、
おんしつもすさまじくクリア。
つまり
パパを呼ぶのに直接呼びに行くひつよう、
全くありません。
ここから呼べます。
公営羅波をきどうするか
単体空羅をパッと詠唱して。
ももちゃんの体をさすさすしながら!!!
安心する言葉でもかけながら!!!
いっちょに術を観ちゃちゅするなどちながら!!!
ここからパパを呼びだして、
待っていれば済むはなし
です。
「…………………せーん、」「チワース」
つまり奴は、
せいかく・せいしつ・いりょくのほどの分からない初見の鬼道にまきこまれることをおそれて、
逃げました。
ももちゃんを見捨てて。
…………………
…………………
…………………許ちぇまちぇん。
もう親でもなんでもありません。
他人です、もはや。
「………………もちゃーん?いるぅ?」「………………ってもいいかなぁ?」
〝ももの天然吸い〟……………?
ちゃちぇまちぇん。
〝人語禁止タイム〟……………?
やりまちぇん。
今後はもう、
同じ家にすんでいる、
赤の他人でつ。
「ねー?」
ももの生活を保障して月額無限円のお小遣いをくれる、
ただそれだけの
赤の他人でつ。
「入るよぉー?」「ごめんねぇー」
〝ガラッ〟
「びゃっ!!!?」
とつぜん、ママがとう走にもちいたのとは別の
来客用のしょうめん出入り口の戸が開き、
人が入ってきました。
「お゛ー?」「すっごい、」「発動してんじゃん、もう」
なれた様子で土間で外履きを脱いで揃え、
(一応神棚に一礼だけはしてから、)
ずかずかと演舞場に上がり込んできます。
「すーげすげ、」「なんだぁ?こりゃ」
「あ、」「ゴゴ、」「びゃ」
さいていです。
てもとには正体不明の鬼道でにげることかなわず、
そこにずかずかと上がりこんでくる不審者。
しかも
おじさんです、
明らかに。
しらが混じりの。
「やったね、ももちゃん」「秘匿鬼祇術の再掘、おめでとう」
「あゴ、」「ごも、」
前門の鬼道、
コーモンのおじさんです。
「お母さんは?」「どこ?」
「あぉ、」「おかおかおか、」「………おか、サン」
「ん?笑」
「………くる。」「もうちょい、」「シィタラ……」
「あ、そう?」
ももは、
〝野菜〟と、
〝知らない人〟が
大のにがてです。
中でも〝おじさん〟は
もーっとにがてです。
ムリ、
理解ふのう。
なぜあんなシワシワでパサパサでゴワゴワで、
場合によっては
くさくてブヨブヨの
変ないきものがこの世にいるのか。
理解ふのう、
です。
「娘の一大事ほったらかして」「どーこ行ってんだか」
「……………」
ムリです、
このじょうきょう。
頭皮がかゆい。
ストレスにより
がんめん、
ばくはつしそう。
「……………」
「ももちゃん、」
「……………」
「犬は、」「好き?」
「……………ぇ、」
犬は、好き。
おじさんと違って。
「ここ、見てみ」
「……………?」
鬼道指揮の前の空間にかわらずあるアナログ時計の文字盤の右上、
ゲージとかメーターとか細かい数字とか色々ひょーじされている中にまぎれて、
デフォルメされた犬のキャラの顔が、
描いてありました。
「……………」
「ね、」「可愛いね笑」「てか、」
「……………」
「多分、女の人が作った鬼道だね」「全体的にピンクで、どことなく可愛いデザインだし」
犬の顔をひだり手のひとさし指でさして、たずねます。
「……………さわって、」
「……………ん?」
「……………さわって、」「いー?」
見上げてはじめて直視したおじさんの顔は、
思ったより、
おじさんではありませんでした。
「うん、いいと思うよ」「殺気が感じられないし」
細くて、つるっとしていて、ヒゲとかそういうのもなくて。
「多分縛道だね。」「危険はないと思う」
しらがに見えた髪は、よく見れば金色でした。
くすんだ赤髪にところどころ混ざる、
色の薄い金の髪。
「指揮もさ、もう離して大丈夫だと思うよ」
「……………え?」
「多分文字盤とセットになって固定されてるんだよ」
「……………」
「離してみな、大丈夫だから」
「……………」
〝パッ〟
キープしているのがしょーじきキツくなってきていたみぎ手をはなすと、
おじさんの言うとおり
指揮は文字盤にむかって垂直にこていされたまま
空中にピタりととどまっていました。
「……………ワァ、」
「……………ね、すごいね」「さすがに見たことないわ、こんなん」
おじさんを見上げ、さっきの犬の絵を指さします。
「いいよ、押してみ」
「……………」
言われるがまま、おそるおそるひとさし指でふれてみると、
〝ボワンッ〟
「……………!!!!?」
「え、」「何だ何だ」
犬の顔はその場で3倍ぐらいのサイズにふくらんで丸みをおび、立体的になりました。
さっきまで透明にピンクの縁取りだけだったのに、
今は白をベースにしっかりと着色されています。
「なんだ、」「この鬼道笑」
「……………これ、」
「うん」
「もたぁーき………」
「……………え、」
「……………」
「何、」「もたーき?」「って」
白地に黒で目・鼻・口が描かれていて
何とも言えないそぼくな表情をしたその犬の顔は
まるでもとあきにそっくりでした。
首に赤と白のしめ縄が巻かれていたけど、
それ以外は本当にそっくり。
「……………」
「なんだろう、なんか」
「……………」
「後付けで色々操作できそうな感じだな…………」
〝ダンッ〟
「ダメッ、」「パパいない」
裏切り者が帰ってきました。
「……………」
「さくらさん」
「あら、赤尾くん」
「だァめじゃないですか、娘さん一人にしちゃあ」
「え、何が?」
裏切り者は徹鉄塊と纏凝堅硬を
なん重にもかさねがけしていました。
徹鉄塊は物理耐性を上げる縛道で、五十番。
纏凝堅硬は鬼道耐性を上げる縛道で、五十一番。
どちらもわきが甘くなりがちな鬼道師の、
戦闘時必携縛道です。
「こんな時に一人にしちゃダメですって」「めちゃめちゃ不安がってましたよ、ももちゃん」
「……………いや、」「大丈夫よ、ももは」
「何でぇ」
「耐性があるじゃない、術者本人なんだから」「大抵の場合」
「大抵の場合って、」「あなたねぇ」
「それに」「何があったって死にゃしないんだから、うちのももは」
「(……………こいっちゅ、)」
「……………あんた、」「あんたそれでも人の親か!」
そうじゃ、おじさん
もっと言っちゃれ
言っちゃってくれ
「もちろんあたしは、ももの親よ」「誰よりももを愛しているわ」「他の二人の子よりも圧倒的にね」
「……………」
「いや、」「……………それもそれでどーなんだ」
「そんなことより、」「さっきはあたしが危なかったのよ」「あたしがっていうか、あたしだけが」
指揮でアナログ時計の文字盤を指して、
毒親ママがまくしたてます。
「見てよそれ、どう見ても爆弾よ!!!」「古代兵器の」
「…………いや、違いますって」
「秘匿鬼祇術ができたのって大体六千~一万年前の間なんでしょう?」「時期的にも噛み合うじゃない」「その頃だもの、ああいった古代兵器が地上に蔓延してたのって」
「いや、縛道です」「これ」
「…………ん?」
「ゴリゴリの縛道です」
「どうして分かるのよ?」
ママは一流の鬼道師で、
鬼道宗家総滅家を統括する女ボスで、
現代さいきょーの鬼道師のひとりでも
あります。
破道の出力ではパパには負けますが
霊子・霊力の変動をいち早く感知して、
後出しで的確にして強固な縛道を放ち、
臨機応変に立ち回るのが得意です。
「いや、ちょっと色々触ったんですよ」「それで特に問題なかった、」
「!!!!!赤尾くん、」「危ないったら」「何の術か分からないのよ、まだ」
そのママがこの術に関しては、
その起こりを見のがしました。
今も、
文字盤からはっせられていてしかるべきの
霊子・霊力がまったく見えなくて、
それでパニクっているんだと思います。
「やや、でも」「これ、ここ」
「何、」「どこよ」
「ここ」「犬の顔…………」
「…………あらかわいい」「ぬいぐるみ?」
これはあるしゅ仕方がない。
この術がめちゃくちゃなんです。
術者本人の
ももにも見えてないもん、
霊子も霊力も何も。
鬼道による具現化物なのに
それをこーせいしてるはずの霊子も、
それらをつなぎ止めているはずの霊力も
何も見えない。
こんなのめちゃくちゃです。
ひじょーしきもいいところ。
「…………ママぁ、」
「…………ん、なぁに」「どしたのももちゃん」
ほんとはおじさんに言いたかったけど、
まだちょっとこわかったから
ママに言うことにしました。
「この鬼道、」「もものだよ。」
「…………うん、」
「………………」
もとあきそっくりの犬の顔に触れました。
ぶにぶにとしていて、ふしぎなかんしょく。
「ももね、」
「うん」
「この鬼道に出会うために」
「うん」
「生まれてきたんだよ。」
「………………」
「………………ももちゃん?」
「………………」
受け取るために、の
まちがいだったかもしれません。
ももは、これを作った誰かから
これをこの時代で受け取るためだけに、
きっと生まれました。
ももは、
自分が生まれた意味を
今日このときはじめて、
知ったのです。
「ももは…………」
「ももちゃん?」
「ちょっと、一旦解きましょう、」「術」
…………………
…………………
…………………誰かが呼んでいる気がします。
あたらしいなにかが始まる予感も。
5どね6どねが当たり前のもものへいおんな日々は、
終わりのときを迎えようとしているのかも、
知れないのでした。

