
→【ホロライブ・アフターライフ】05-01 に続く
僕は小説の主人公でも何でもない… だけど… もし仮に僕を主役にひとつ作品を書くとすれば… それは きっと… “悲劇”だ───────金木研(漫画:東京喰種)
───────────秋。
───────────夏と冬が交互に来てるだけの、
───────────秋。
───────────心を病んだ男の哀れな饗宴は、
───────────まだ終わりの時を迎えないでいた……………
『ぎしり』
「……………」
「……………」
「……………あ、」
「……………あぁ、」
「……………メルちゃん、」
「……………か、」
「遊びに来て、」
「ゴホッ」
「……………来てくれたんだ、」
「ありがとう、、、」
真っ暗な廃墟の中、男の声だけが弱々しく響く。
「ごめん、ちょっと…………変なこと訊くけど、」
「昨日も、来てくれたんだっけ?」
「なんか、分からなくて、ここに居ると、時間の感覚が」
女は首を横に振る。
「そっか、なんか、」
「………………………」
「変なんだ、最近なんだかずっと同じことばかり繰り返している気がして、、、」
「………………………え、」
「〝何回ぐらい?〟って?」
「………………………」
「………………………」
『1000引く7』
「回ぐらい、かなぁ」
「………………………え、」
「〝1000引く7回って何回ぐらい?〟って…………?」
「………………………」
「………………………」
「………………………1000回ぐらいだよ、大体」
廃墟の暗がりの中でさえ光り輝いて見える程に、女は相も変わらず美しかった。
一方、
男は季節が半周もする間延々と繰り返した女との逢瀬により、疲れ果ててボロボロだった。
骨と皮ばかりに痩せ細り、目は虚ろ。
床にはどうしたわけか、動物向けの餌の空き缶がいくつも転がっている。
「メルちゃん、今日はね、」
「言わないといけない」
「………………………ゲホッ、」
「………………………ことが、あるんだ」
「ずっと言えずにいて、結果的に隠すことになってしまっていたけど、」
「今日は言う……………」
「………………………ゲッホ、ゴホ」
「言うよ…………………」
「君はもう会ってくれなくなってしまうかも知れないけど……………」
「言うよ、勇気を出して」
そう言ったきり男は黙り、名残を惜しむように床を見つめている。
女はそんな男を気遣うように歩み寄り、その背中にそっと手を添えた。
「………………………」
「………………………」
不穏な静寂が、二人を包む。
「僕はね、メルちゃん」
「喰種になって、、、、、」
「しまったんだ、、、、、ッ」
女はあー、と感情の乗らない生返事を返した。
相手が人喰いの化物に身をやつしても気にしない器の大きさ故だろうか。
それとも、
未履修だったせいだろうか。
「ある日出会った眼鏡の、なんか」
「オッパイのデカい女にこう、肩の辺りを、噛まれて」
「なってしまったんだ、喰種に、、、、、、」
女はふぅん、と感情の乗らない生・相槌を打った。
未履修だったからだろうか。
それとも、
男がバカだからだろうか。
「それからもう、人間の食べる物が何もかも不味くて」
「ピーマンは濁った機械油みたいで飲めたもんじゃないし、しいたけは動物の脂肪を練り固めたような気分の悪さだし、トマトは口の中で糊でもこねてるみたいで……………」
「………………………え?」
「〝人間だった頃は食べれたのか〟」
「って…………………?」
「食べたことないよ」
「だってさぁ、」
「ピーマンは濁った機械油みたいで飲めたもんじゃないし、しいたけは動物の脂肪を練り固めたような気分の悪さだし、トマトは口の中で糊でもこねてるみたいで……………」
女はそんなことより、とくだらない与太話をさえぎり、男の体調を気遣った。
「え、体調?」
「全然いいよ、むしろ絶好調」
「え、〝咳込んでた〟」
「って…………………?」
「いや、咳じゃなくて、むせてただけなんよ」
「猫の餌がちょっと、喉奥詰まって」
「急に来たから、メルちゃんが」
「………………………え?」
「〝猫の餌なんか食べて体調崩すに決まってる〟」
「って…………………?」
「いや、それが」
「めちゃめちゃ美味いんよ」
「最初はもう生臭くてヌメヌメしてて」
『豚の内臓を舐めてるみたいだッ!!!』
「ってなって食えたもんじゃなかったんやけどさ」
「もう病み付きですよ、今となっては」
「前来たときさ、途中で庭の方ででっかい声出してたジイちゃんいたやん?」
「あの人が〝猫が住み着いた〟って勘違いしたみたいで毎日庭に置いて行くんよ、」
「猫の餌」
「で、金ないししゃあなしで食ってたらハマってさ」
「余計な物入ってないから」
「ダイエット効果もバッチリよ」
「人生で一番痩せてる、今」
女は、バレないように下を向いて完璧な自分の爪を眺めている。
「メルちゃんはさぁ、」
「僕思うに、」
「僕思うになんですけどォ、」
「痩せた男、めちゃ好きやない?😚」
「僕僕僕僕僕僕ゥ~~、」
「この前駅前のネカフェのPCで観たんですよォ」
「ガリッガリに痩せた弱男が」
「嬢に膝で腹にドォンッやられてるやつゥ~」
「めちゃくちゃ興奮してさぁ😲」
「めちゃくちゃ興奮してさぁ😲」
「めちゃくちゃ興奮してさぁ😲」
女は、スマホをいじっている。
「その嬢がさぁ、」
「そっくりだったのよ、メルちゃんに」
「声と体形がぁ😚」
「僕達ってさぁ、上手くいかなかったじゃない?」
「そのぅ~、」
「行為が😚」
「何度試みても」
「何度襲いかかっても」
「どれだけ手練手管を用いようとも」
「………………………」
「………………………」
「………………………逆、」
「なんじゃないかなって思ったのよ」
「受け・責めが」
「だからさぁ、この痩せ細った僕を」
「一回君の方から全力で」
「殺す気で」
「襲ってきてみてクレメン…………」
スマホ画面に視線を落としたまま、女が核心を突く。
「………………………え?」
「〝噛んでなるとかじゃない〟」
「って…………………?」
「あ、」
「喰種のこと…………?」
「………………………」
「………………………」
「………………………そうなの?」
「吸血鬼とかゾンビと」
「同じ仕組みじゃないの?あれ」
「………………………え?」
「〝猫の餌とかも多分食べれないよ〟」
「って…………………?」
「………………………」
「………………………」
「………………………え、じゃあ」
「カツカレーと」
「ポテトと」
「バニラソフトと」
「ドリンクバーは?」
「ネカフェ行ったとき全部いけたけど…………」
「………………………あ、」
「〝全部無理〟?」
「えー…………………?」
「おっかしいなァー………………」
「………………………え?」
「〝珈琲はどうだった?〟」
「って…………………?」
「………………………」
「………………………」
「………………………いやごめん、」
「コーヒーはあんま好きじゃないわ」
「辛いやん、なんか」
「飲むと嫌な気持ちになんねん、後味といい」
「茶色い飲み物の中で」
「一番嫌いまであるわ……………」
「………………………」
「………………………」
気まずい空気が、部屋を満たす。
「………………………」
「………………………」
「………………………なんかさぁ、」
「疑ってる感じかな?」
「僕が、喰種になった件について」
女は間髪入れずにうん、と短く相槌を入れる。
「そっ……………」
「かぁ……………」
「残念だな、、、、」
「せっかく」
「見せてあげようと思ってたのに」
面倒になった女は足を投げ出し床にぺたんと座った姿勢のまま
両手を後ろ手に突いて首を左斜め後ろに傾け、
なにがぁ?と尋ねた。
「赫子」
女は〝バッ〟と首を起こして男を見た。
「〝あるの?〟」
「って…………………?」
「………………………」
「………………………」
「………………………フッ、」
「バカだなぁ、メルちゃんは」
「あるに決まってるじゃない、なにせ僕は」
「喰種」
「なんだからね」
それなりにガチ勢だったらしい女は興味を惹かれたらしく、男に擦り寄り体のあちこちをまさぐった。
いい匂いがする。
定期的に当たる。
スレンダーな体形に不釣り合いな、
でっかい乳が。
「もう、分かった分かった」
「そんなに慌てなくても、見せてア・ゲ・ル・よ」
男は興味津々に女が見守る中
カチャカチャと
ズボンを下ろし始めた。


