
女は〝あ、ごめーん〟と、今度は心底申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせた。
「………………………え?」
「〝たまにやっちゃう〟」
「〝昂っちゃうと〟……………?」
「…………………へ、」
「…………………へえぇ、」
「そういうタイプ、なんや……………」
弱々しい発声と所作、〝襲われ待ち〟とも取れる過度な露出、男目線を意識しているとしか思えない胸部の強調から女の癖を〝ドM〟と決めてかかっていた男にとって、これは意外なことだった。
「(めちゃめちゃドSなんや、この感じで……………)」
「(めちゃめちゃ意外……………)」
「(…………………おりゅ?こんな甘々の甘えん坊ボイスで)」
「(露出バリバリで〝襲われ待ち〟でしかない即ハボ女が)」
「(…………………)」
「(…………………おりゃねぇーよ)」
「(…………………おりゃねぇーよなぁ)」
「(…………………少なくともおりゃ(=オラ)の経験上は)」
「(おりゃねーよ、一人も)」
視線を逸らして物思いにふける男の側で
女は、待機している。
糸の切れた人形のように、両手をダラりと床に垂らし
膝を折り脚を開いてペタりと座り込み、
どこでもない床に視線を落として
ただ待機している。
「(…………………考えてみれば)」
「(僕はメルちゃんについて)」
「(何も知らない)」
「(男を誘うような甘々の甘えん坊ボイスと)」
「(〝襲われ待ち〟としか思えない過度な露出と)」
「(ガリガリの体に不釣り合いな爆乳と)」
「(コスプレ好きの見られたがりで、根がズベ公の変態さんなんだってこと以外)」
金色だった女の瞳は、
真っ黒に塗りつぶされている。
暗闇ですら煌々と輝いて見えた髪も、
今はベッタリとした黒色だ。
「(僕は、自分の気持ちばっかりで)」
「(メルちゃんのことを)」
「(ちゃんと見れていなかったのかも知れない)」
「(巨乳だとか顔が可愛いとかそんな外面ばっかり見て……………)」
「(…………………)」
「(…………………)」
「(…………………それで、)」
「(そんなことで、メルのことを一人の女として)」
「(本当に愛してるって、言えんのか?)」
「(バカッ!バカッ!)」
「(俺のバカッ!)」
〝メルちゃん〟と呼びかけ男が視線を戻したとき、女はまた元の美しい姿に戻っていた。
見返す瞳は息を呑む程に美しい金、
髪も金色で暗がりの中でも煌々と輝いて見えた。
両脚を閉じて膝を畳み、お行儀よく斜めにちょこんと腰かけている。
男はその様子を見て、とうとう決意を固めた。
「いいよ、メルちゃん」
「僕を好きにして」
「やっと分かったんだ、メルちゃんの本当の姿が」
「僕は耐えるよ」
「だってメルちゃんに対する僕の気持ちは本も…………」
〝ワッシ〟
当然、女は男の言い終わりを待たなかった。

