
〝ワッシ……〟〝ワッシ……〟
「(痛ったい…………)」「(痛い…………痛い…………)」「(痛い…………)」「(けど、)」
「(耐えられる、さっきまでと比べると…………)」
女への気持ちを新たにした男の、漢としての精神性が、
今局部に信じられない程の頑強性を与えていた。
「(ここまで痛いと、多分)」「(多分今日は挿入とかは出来ない…………)」「(けど、)」「(関係ない)」「(挿入以外にも出来ることは色々ある、)」「(アレとか、)」「(コレとか…………)」
男は、真実の愛に目覚めたのかも知れなかった。
長く生きてきて今まで持てずにいた、
女性という種別への真の愛といたわりと、慈しみと忍耐、その全てに。
「(相手がMならこちらがSになればいい)」「(相手がSならMになればいい)」「(そう、相手側に合わせるのは)」「(何も女性でなくたっていいんだ、)」「(僕ら側が合わせたっていい)」「(そう、僕は水)」「(愛する女性に合わせていくらでも姿形・性質を変えられる水)」「(そう、僕は今初めて)」「痛ぃッッッだぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!」
許容量を超す痛みにやられ慢性的な鈍痛以外何も伝えてこなくなっていたそれが、今までとは違う種類の新しい痛みを男に伝え始めていた。
「(何!?)」「(何これ!?)」「(何これ何これ)」「(何この痛み!?)」
それはそれそのものからではなくその内部、中心付近から鋭く発せられる刺すような強い痛み…………
女の行き過ぎた握力により尿道の内壁と内壁が擦り合わされたことで発生した、
それはもう信じられない程のもンのっ凄い痛みの激痛であった。
「痛いっ!!!」「痛い痛い痛い痛い」「痛いっ」「痛い、」「痛いぃぃぃぃ……………(泣」
〝それでも耐える〟という意志に反して、男の口は罵詈雑言をまくし立てていた。
「痛いっ!痛いって!」「もうさっ!さっきからなんなんもうっ!」「分かるやんっ!大体さぁっ!!」「このくらいの歳になったら力加減とか触る場所とかさぁっ!」
〝ワッシ……〟〝ワッシ……〟
女は止めない。話を聞く素振りもない。
暗がりの中ただ真っ黒な瞳で男の縮み上がった〝赫子〟を見つめ、一心不乱に同じ作業を続けている。
「あっ!」「あ゛っ!」「あ゛っ!」「あ゛っ!」「あ゛っ!」「も゛う゛っ!」「あ゛っ!」
男は、〝死ぬのかもしれない〟と思い始めていた。
「人生で感じたことのない痛みを」×「局部を押さえ込まれたまま」×「やっと落とせた好きな女に与えられる」という未曾有の状況に置かれ、
それで死ねるならいいだろ、いやダメだろどう考えても、の思考の間を行ったり来たりしていた。
〝パッ〟
「!?」
男の意識が遠のき始めたその時、女はおもむろに〝赫子〟から手を放し、
「(た、助かった…………?)」
〝ワッシ〟
「!?」
握る箇所を〝赫子〟の中腹から先端に移行させた。
〝ワッシ……〟〝ワッシ……〟
「アッ!!」「ギャッ!!」「アッ!!」
当然、男は更なる激痛に襲われた。
「あぁんもうっ!(憤慨」「あぁんもうっ!(憤慨」
〝ワッシ……〟〝ワッシ……〟
「あぁんもうっ!」「バカッ!」「メルちゃんのバカッ!」
〝グニィ……〟〝ワシィ……〟
「分かるやんっ!大体さぁっ!」「そこはっ!質感でっ!」「優しく触らなっ!」
〝グリグリィ……〟〝グシャァ……〟
「大変なことなるとこやって!」「絶対痛いとこやって!」「分かるやんっ!」
〝ムニィ……〟〝グニャア……〟
「あぁんもうっ!(憤慨」「あぁんもうっ!(憤慨」
〝バッ〟〝ブチィッ〟〝ゴロゴロッ〟
男は、矢も楯もたまらず
〝グシャア〟
〝ローリング・エスケイパー(体を横にグルグルと回転させて危機を脱すること)〟で女から逃れ、部屋の壁に激突した。
「…………ウ、」「…………ウ、ウ」
男は、
「…………ウ、」「ごめんなさぁい…………」「もう無理ィ…………」
寝たまま壁を向いて泣いていた。
「アタシにはもう無理…………」「ごめんなさぁい…………」「もう無理、出来なぁい…………」「…………ウ、」「…………ウ、ウ」
真っ暗な静寂が、部屋に満ちる。
男はすすり泣いている。
女は両手を床にダラりと垂らして待機している。
猫の餌の匂いがする。
女の両目は穴が開いているかのように真っ黒だ。
髪も真っ黒で服も黒ずみ、もうほとんど廃墟の闇に溶けかかっている。
男のすすり泣きだけが廃墟にこだまする………………

