✔ 3:21～ 潤羽の脱退を伝える3期生の合同配信で静かに取り乱す宝鐘。声色と口調から強い喪失感と負ったダメージの深さが窺え、聴いていてただただ辛い。2022年初頭の出来事だったがこの後宝鐘の浮上頻度は非常に不安定になり、この件や潤羽について表で触れた事は一度もない。
まともな人間がこの配信を観て思うのは「こんな事は二度と繰り返してはいけない」の筈だし、3期のみならず色んなホロメンが同じ想いで我が身を引き締めたと思うが、潤羽と全く同じパターンで炎上しその後も我を優先して燃料の投下を繰り返す星街はそう思っていない。自分が潤羽と同じ結末を迎えた時この配信の宝鐘のように悲痛の声を上げるのは不知火か湊かさくらみこか、誰だったとしても星街にその誰かを悲しませたくない、大切にしたい、守りたいと思う気持ちはない。
これだけ同じ形式で炎上して後ろ暗さを感じないという事は潤羽の脱退も、それを受けて深い傷を負いどう頑張ってもそれまでと同じ気持ちでは活動出来なくなってしまったホロメン達の事も星街にとってはどこか遠い、無関係な場所で起きた対岸の火事でしかない感じだろう。もちろんその当事者たちの気持ちを慮って心を痛める事も星街はしていない。
✔ 3:27～ 上の配信から半年後、チャンネル登録者数200万人を達成した場で潤羽の脱退の件を断ち切れていない胸の内を吐露する兎田。ここからもう1年経った訳だが兎田はまだ当てつけや八つ当たりのように配信で潤羽の名前を出す事をやめられていなくて、負った傷が未だに癒えていない事が窺える。
天音が桐生の脱退を境に活動を乱降下させ続けている事もこれに類する例だが、事務所の中で誰かと深く関わり存在感を発揮していたVは脱退と共に近しい場所に居た同僚に深刻なダメージを与え、時にはその活動の形までもを大きく歪めてしまう。潤羽の項でも触れた通り同僚との関係性をアイデンティティの一つとする事でホロメンは強くなっていく訳だが、裏を返せばそれを失ったホロメンは弱体化し調子を崩す以外に道はなく、ホロライブで活動する以上自分の気持ちや都合を最優先に動くという事はこの時点で許されない。この配信のようにどこへぶつけていいか分からない怒りと耐え難い喪失感を持て余し苦しんでいる兎田の様子だとか、釈明配信の時には一番取り乱していた宝鐘が──あの人一倍情に厚く潤羽との距離も兎田より近く、思ったことは言わずにはおけない性格をした宝鐘が──全てを押し殺して黙りこくっている様子を見てその理屈が分からないのならそいつはもう人間ではない。
星街が退所になった場合まず被害を受けるのは今回星街が騒動を受けていの一番に頼った不知火建設で、「スターライバー2＋ザコ3」の構図が「スター1＋ザコ3」の構図になればユニットとして盛り下がる事は間違いない。不知火建設は現在ホロライブ一事務所に重宝されている多人数参加型の大型ユニットだがリスナーからの人気は実はそれ程でもなく、星街が消えればこのユニットは実質終わりだろう。──アホな星街は理解出来ていないかも知れないから一応言っておくと、星街が退所になったらしらけんのこのメンバーと横並びで一緒に活動する事は今後死ぬまで一生出来ない。
不知火建設とは違いリスナーからも多大な人気を誇るみこめっとも当然消滅する。星街みたいな人を大事にする事を知らない人間と違いさくらみこは関わる同僚皆に等しく愛情を以て接するので星街が退所すれば当然苦しむことになる訳だが、それ以上にみこめっとの消滅はホロライブ箱推しリスナーの大半を激しく失望させる。ぺこマリやあくあマリン、かつてあったぺこみこと同格の人気ユニットの消滅は星街自身の退所と同等の暗い影を事務所に残す事になるだろう。
ここ最近はホロメンがにじさんじ所属のライバーに声かけを行い、コラボを通じて友好関係を結ぼうと試みる動きが頻発しているが星街がいなくなればにじさんじの中堅所筆頭戌亥がホロライブと通じる可能性はほぼなくなり、それに伴いフレン・E・ルスタリオを始めとしたその界隈のライバーがホロライブと関わる可能性も絶望的になるか、もしくはまともな関係を結ぶのに年スパンの後れを来す。戌亥に連なっているような界隈にいる全ての女性にじライバーの活動がうまくいっていないのは才能ではなく環境のせいだが、中でも一際その趣の強い戌亥の事を引っ張り出して最後にVやっててよかったと思えるような活動にレーンチェンジさせてやれるのは星街しかいない。つまり星街の退所は戌亥のVとしての将来を閉ざし、そのキャリアを実質的に終わらせてしまう。
他にも常闇や大空を始めとした昔馴染みだとか、宝鐘を母、星街を姉と定義付けて精神的な支柱としている湊だとか、現在星街だけが牽引している歌い手系VTuberの可能性だとかそういった諸々は星街の退所と共に激しく傷を負い機能の大半を失うか根本から破壊されて消滅してしまう。星街が退所する事により生じる痛手はどう考えても桐生や潤羽の脱退の時とは比べ物にならないレベルで、ホロライブというより業界全体の損失と言っていい。
釈明配信で自分の正当性を声高に叫んでいた星街は、これら全てより自分一人のプライドを優先させていた。潤羽を失って大きな傷を抱えたままの兎田や宝鐘の潰れた気持ちも、何があっても受け入れ続ける決心を今この時点で固めているしらけんの優しさも、自分の後を付いて来る湊の事も、自分にもしもの事があったら死ぬ程苦しむその他のホロメン達の事も星街は一切考えていない──と言うより、日頃彼女達の事を気にして生きていない。皆と一緒にいるこの時間を守る為なら自分を曲げてでも退所の可能性は0％に抑え続けるという固い誓いを一人だけ共有していない星街の気持ちは日頃行動を共にしている他の誰とも通じていない。
✔ 今回の件はタレントの熱愛スキャンダルでもアホな女インフルエンサーの炎上劇でも、業界の急成長に肝心のVTuberの方が未熟なまま追いつけていないという近頃業界で散見される問題を端的に表した好例でもない。──これはただの悲しい話だ。皆に愛され大事にされてもそれを何とも思えない貧しい女がぎしりと奏でた不協和音。こんな特殊な仕事の場でなくとも現実社会の至る所、あらゆるコミュニティで繰り返されている凡庸な話。──それでも誰かを確実に傷つけ生きる事を少しだけ諦めさせる、そんな悲しいお話だ。
不知火は配信に星街が飛び入りで参加すると「すいちゃん、待ってたよ！」と言う。絶賛炎上中で配信の視聴回数は低下し、行く先々にアンチコメントを必ず発生させる腫れ物を意地でも通常営業で迎え入れるという堅い決心で不知火はそれを言う訳だが、不知火は不器用なのでその意気込みを上手く隠せていない。星街が意表を突いて配信に参加しても「すいちゃん、待ってたよ！」などと勢い込んで普通言わないし、その後のよかった来てくれて、今日どうしてたの、もやり過ぎだ。「元気？」「しんどくない？」「誰かに嫌な事されてない？」という意訳がテロップでもうほとんど見えかかっている。
不知火の「すいちゃん、待ってたよ！」の声は、誰の元にも届かない。星街の事だけを思って発せられたそれは星街を透過してどこか遠い所まで行って、在り処が分からなくなってもずっと反響し続ける。星街が独自の理論で釈明を行っている時も、裏で男とアンチの悪口を言っている時も、取り返しがつかなくなって退所した後も、皆が星街を諦めて存在ごと忘れてしまったその後もずっと反響し続ける。「待ってたよ」「好きだよ」「ずっと一緒に居よう」───それでもその声が誰かの元に届く事はない。
