【①本作はMCU作品。時系列は「エンドゲーム(2019)」直後】
【➁10人の「エターナルズ」の人種と性別を確認しよう。作中でそれぞれに与えられた役割にも注目】
※ネタバレを含みます※
【①上品で落ち着いた作風】
【➁丁寧な描写で壮大なストーリーも理解が容易い】
【③練度が高くリアリティに満ちた、こだわりのアクションシーン】
【④個性豊かでそれぞれに魅力的なキャラ達】
【⑤壮大でアーティスティックな世界観。最終局面の荘厳さに息をのむ】
【①メインキャラの特殊能力の多くが既出の他ヒーローと被る】
【➁最終バトル時、ヴィラン側が手薄で貧弱。盛り上がりに欠ける】
✔ エターナルズは2021年公開のMCU(マーベル作品を原作とした映画作品群)作品。「キャプテン・マーベル(2019)」でキャロル(主人公)のクリー帝国での元同僚で、スナイパーのミン・エルヴァを演じたジェンマ・チャンが主演を務め、アンジェリーナ・ジョリー、サルマ・ハエック等が脇を固める。監督は「ノマドランド(2020)」のクロエ・ジャオ。エターナルズは10人から成るヒーローチームでそれぞれが特殊能力を持ち、人類を「ディヴィアンツ」から守る為有史以前から地球に住み続けている。
エターナルズはMCUでこれまでに類を見ない程スケールの大きなヒーローチームだ。ソーを「あのチビのソーが今や…」とか言ってしまう程昔からヒーローをやっている彼らだが、それぞれの特殊能力は少々地味で、既出のヒーローと被る物が多い。全員が恐らくソーと同じ程度のフィジカルを持ち、スーパーマンのほぼコピーな能力を持ったチームのエース、ロキと同じように幻覚を操る少女、フラッシュやクイックシルバーと同じ高速移動の黒人女性、プロフェッサーXの弱体化版のようなマインドコントローラー、天才科学者、触るだけで傷を治す能力も具体的には知らないが多分どこかにいるだろう。あとは霊丸めいて指から光弾を飛ばす人と剣・槍を出す人に籠手を出して殴る人ときて最後に物質変換能力のある主人公なので、やはり全員地味だ。「エターナルズ」は壮大なバックボーンと照らし合わせると少々貧弱なヒーローチームと言えるだろう。
しかしその戦闘シーンは大作アクション映画を手掛けるのは初めての監督による物とは思えない程よく出来ている。引きの画で一つ一つの動きをちゃんと確認出来るよう撮ってくれているのでアクション映画好きの人にはたまらないだろう。高速移動のヒーロー「マッカリ」はXメンのクイックシルバーと完全に同じ能力だがあちらとはまた趣向の違う、上質なアクションで魅せてくれる。最強の敵を高速移動で一方的にフルボッコにするシーンは見物だ。
アンジェリーナ・ジョリーは「戦神アテナ」として語り継がれたヒーロー「セナ」を演じており、現在40代中頃だが年齢を感じさせないアクションを見せてくれている。難しい動きをする時は基本的に顔が見えていないがアクションシーンの継ぎ目も監督の丁寧な編集のおかげで全く気にならない。戦闘向きの能力を持たないヒーローがジョン・ウィックばりのアクションを見せるシーンもあるが、監督の撮り方がいいので思わず唸ってしまう。「丁寧な作品作り」というものが没入感を生みアクションシーンの鑑賞にあたっても影響を及ぼす、という事をはっきりと実感したのは今回が初めてだ。
私は「ノマドランド」をスルーしていたがクロエ・ジャオは物凄く筋のいい監督のようだ。有史以前から続く「エターナルズ」の壮大過ぎる世界観や、そのメンバー一人一人の魅力や内なる葛藤を余すことなく丁寧に描写しつつ映画全体のテンポも崩さないのは並大抵の事ではない。アクション映画をまともに撮るのは本作が初めてだと思うがそちらもよく出来ている。今後目の離せない監督の一人になりそうだ。
近年のMCUにふんだんに取り入れられている多様性・社会的マイノリティー賛美を、本作は特に踏襲している。10人のヒーローチームに異人種カップルが3組、性的マイノリティが1人、聴覚障がいを持つヒーローが1人、過半数が有色人種でチームの半分が女性、リーダーは有色人種の女性でその座を引き継いだのも同じく有色人種の女性だ。以前はヒーロー映画やアクション映画の顔だった白人男性はなんとたったの2名で、決していい役を当てられているとは言えない。中でも高速移動のヒーローマッカリは「黒人、女性、聴覚障がい」という社会的マイノリティー3枚抜きを達成しており、それに比例して作中での立ち位置が良く、戦うと物凄く強い。演じているのはローレン・リドロフという女優だが、彼女はドラマ「ウォーキングデッド」でも同じく「黒人で女性、聴覚障がいまであるが強い」という趣旨のキャラを演じている。昨今の、少々行き過ぎた風潮があったからこそ成功出来た運のいい女優と言えるだろう。
アメリカのこういった風潮は「反差別、反抑圧」を下敷きにして成り立っているが、白人男性を追いやり悪いイメージを付けるような作品作りをするのは、言うまでもなく差別だ。女性や障がい者ならではの長所や美徳を賞賛する事に専念出来ず、反対側をどうあっても落とそうとする様子を見るにアメリカのクリエイターというのは「差別自体をやめる」という事がどうしても出来ないのだろう。
最近「映画のポリコレ(多様性を認め、公平な振る舞いに努めるという概念)化反対!」という発信をよく見るが、私は全く同調しない。どんな時代にどんな作品を作ろうとも必ず誰かを差別しなければならないのならその対象が白人男性でも別に構わないじゃないか。願わくば異人種カップルや同性愛カップルのビジュアルをもっと良くして恋愛描写に磨きをかけ、鑑賞時本気でときめかせて欲しいものだ。現状そういったカップリングは「とりあえず組ませてるだけ」といった感じのずさんなものが多く、あまり質がいいとは言えない。そして東アジア系のキャラに無意識に三枚目を起用し、半分ギャグのように適当な殺し方をするのをやめて欲しい。まあアメリカの創作物に登場する東アジア人は日本人という設定があっても9割方中国人なので私には本来関係のない話ではあるのだが。
「エターナルズ」は歴代MCU作品でも上位に入る上質な映画だ。経験が浅いにも関わらず破格の技量を持つ監督のセンスを感じつつ、映画界の最近の流行も意識しながら観てみよう。宇宙規模の設定は今後MCUの本筋にも必ず絡んでくる。シリーズを追っている人には是非の視聴をお勧めしたい。