運が良ければ年に数本、無名の監督に低予算、見たこともない俳優陣という悪条件の中我々を楽しませてくれる映画に出会える。
古くは「ソウ」、邦画であれば「カメラを止めるな!」、みんな大嫌い「ムカデ人間」。記憶に新しい「ジョン・ウィック」や「クワイエット・プレイス」の成功もその類と言えるかも知れない。
「ブレア・ウィッチドリーム」とでも呼ぶべきこれらの作品は、興行的に期待出来るから、という理由で大抵続編が作られる。
そしてこの続編は結構な確率で駄作になる。
「思ったよりバズったから次作ってよ」と急遽オファーを受けた監督が一作目以上のアイデアを用意出来るとは限らないし、一作目のネームバリューで少しでも儲かればそれで良し、とずさんな製作が成されるケースもある。
マイナーだけどいい映画見つけたな、と思ったらその続編には注意した方がいい。
一作目・二作目共に「ドント・ブリーズ」と公開時期の近い「クワイエット・プレイス」シリーズは見事にその轍を踏んでしまった訳だが、本作は何と奇跡の死亡ルート回避である。「ドント・ブリーズ2」は作品単体として前作にも引けを取らない程に出来が良く、また「ヒット作の続編、かくあるべき」という模範解答を導き出している。
今作は前作に対して【前作の悪役を主人公に据える】【ホラーからアクションにジャンルを変更する】【自宅に籠り、おぞましい行いにふける異常者を、ちょっと厳しいだけの優しく情に厚いパパに】等の思い切った改変を加えているが、老人の「盲目だが超人的な聴力と戦闘力を誇り、自分の生活を脅かす者に地獄を見せる」という前作最大の肝である設定を全くスポイルしていない。前作最大の長所を押さえつつ新鮮な作品作りを心掛ける、見事な舵取りである。
前作からかなり時間が経ち、老人を取り巻く状況も大きく変わっている事を説明しつつ、伏線を丁寧に蒔きながら屈強な犯罪者達が日常に忍び寄ってくるまでの描写と展開も完璧。
前回のケチなコソ泥達と違って明らかに組織立ち、経験豊富な犯罪集団に老人の力はどこまで通用するのか、どう戦うのかと期待が高まる。
予告編やあらすじを見ていれば大方予想がつく事だろうが、前回と違って今回は老人が小学生ぐらいの女の子を犯罪者集団から守る話である。
父×娘物といえばアメリカの創作物の鉄板で、本作にはそのジャンルの不朽の名作「レオン」へのオマージュとも取れる要素がいくつか織り込まれている(「孤児院」、「全員だよ!」等)。
加えて「強いおじさん無双」「犬を人より大事にする」等の鉄板要素をふんだんに盛り込み、既視感満載の満足感を常に与え続けてくれる。
知り合いの死にショックを受けたり自分を食い殺さんとばかりに向かってくる犬をどうしても殺せないの、とやっている姿を見ると「前作であれだけやっておいて聖人ぶってやがらぁ」と笑ってしまうが、面白ければ何でもいいのだ。
盲目である縛りを守りつつ、聴覚と触覚を頼りに立ち回るシークエンスはどれも創意工夫と意外性に溢れていて大変素晴らしいが、私が今回特に衝撃を受けたのは、深夜誘拐目的で家に忍び込んだ犯罪者集団を、たった一人在宅していた小学生女児が、見つかるすんでの所を紙一重の動き(老人仕込み)で躱し続け、結局見つからないという序盤の、ワンカット(風)の長尺シーンである。
キャスト、スタッフ共に相当こだわらなければ作れないシーンで、注視していなければ見逃してしまうシークエンスがいくつも含まれている。
この一要素だけをとっても、本作は作り手が相当な熱意を持って製作した事が分かる。
前作最大の肝を堅守し、その縛りをむしろ逆手に取って、創意工夫で作品固有の魅力へと昇華させる事は、前作へのリスペクトと観客への配慮が無ければ出来ない事で、今作の監督はこれ以上ないレベルでそれを実践している。
加えて丁寧で熱意ある映画作り、皆が大好きな鉄板要素をふんだんに盛り込んだ今作は言わば「ヒット作の続編、かくあるべき」という模範解答と言える。
商業に利用されて死んでいくシリーズが多い中、こういった事例が少しでも増える事を願うばかりである。