【高まる質、尽きぬチャレンジ精神。マンネリとは無縁のスーパーご長寿シリーズ】
ドラマにしろ映画にしろ、長く続くシリーズにはある程度共通した特徴が表れる。
そこまで長く続けるつもりではなかった監督が、もう降りたいのに周りに許して貰えず苦しんでいる様子がスクリーンから見て取れたり、出涸らしになったコンテンツをギャグとしか取れないような形でリメイクしたりコラボさせたり・・
「ワイルド・スピード」シリーズも御多分に漏れずキャストが途中退場したり死人が生き返ったり、スケールが膨らみ過ぎて宇宙に行ってしまったり、とあるあるを実践してくれている。
シリーズとしてやりたい事はとっくにやり尽くしているのに、需要に応えて何とか続けている証拠だが、それでもこのシリーズはマンネリも腐敗もせず、常に高品質で新しい映画作りを心掛けている。
非常に好感の持てる、稀有な例と言えるだろう。
「ワイルド・スピード」シリーズは、足掛け二十年も続いている。
二十年前と言えばハリウッド映画のテイストは今と大きく違い、当時のテイストを含んだ要素をそのまま現在の映画に取り入れてしまうと空気が読めなくてズレた、なんとなくダサい作品になってしまう訳だが、本作はあえて二十年前の、一作目の頃の映画あるあるを採用した上で、それをセルフパロディ的なギャグシーンとして配置する粋な計らいを見せている。
序盤の、ジョン・シナ演じる主人公の弟が登場するまでのアクションシーンは、監督がニヤニヤしながら作ったビッグスケールのギャグプロットである。
コメディ担当の躁黒人、メインキャストには絶対に当たらない数千発の弾丸と爆発しない地雷、ペチンペチンと安っぽく弾ける壁や地面の火薬・・。
「大丈夫なのか、この映画大丈夫な奴なのか・・?」とひとしきり気を揉んだ辺りで、予告編で見た、車が一人でにワイヤーを掴んで空を舞う例のシーンが来て、ああなんだ全部ギャグだったんだ、と安堵する。
自虐的ですらあるセルフパロディを、この費用、このスケールでやり切ってしまうのは素晴らしく粋である。
それ以降のアクションシーンはどれも全て、斬新さやリアリティの面に強く拘っていて、大変質が高い。
工業用磁石で街にある大小さまざまな金属を、洗いざらいかっさらいながら激走するカーチェイスや、車で大気圏を目指す事のどこがリアリティか、と言われそうだが、「ギリギリ可能なのかな・・?」と思わせる画作り、説明を心掛けていて、まあ騙されてやってもいいかな、という気にさせる。
筋肉と筋肉がぶつかり合うバトルシーンはリアリティと創意工夫に満ちていて、「ジョン・ウィック」のように殺陣に拘ったアクションが好きな人には持ってこいである。
今回主人公の弟役として存在感を発揮しているジョン・シナは、役者としては長年芽が出なかった遅咲きの人ではあるが、本作と公開時期の近い「ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結(2021)」でもいい演技を見せている。彼は最近ハリウッド映画のステレオタイプになりつつある「実力があって賢く、見栄えもいいが、独善的で性根の曲がった、嫌な白人」の役がよく似合う。
ヴィン・ディーゼルもすっかり歳をとって、今回のハードなアクションシーンもほとんどはスタントマンに頼ったと思うが、それでもあれだけ出ずっぱりで楽な撮影だった筈がない。未だに人種は何なのか、ハリウッドスターとして成功したのかそうでもないのか、演技は上手いのか下手なのか、カッコいいのかダサいのか、色んな事が分からない人だが、彼にとって「チーム・ワイルド・スピード」が、一番のホームである事は間違いないだろう。
非業の最期を遂げ、志半ばに倒れたポール・ウォーカーを、姿は見えないが今もいる、遠くでチームを見守ってくれている、という扱いでエア出演させる心遣いにも言及したい。
長く続くシリーズ物で、重要なキャストが急に居なくなった場合大抵腫物に触るような扱いで決別して遠くへ行った、死んだという処理になるが、今回のように裏でチームの補佐をしている、という存在感を感じさせる演出をするのはかなり珍しい。
彼の運転する、彼カラーの車の走行音がこちらに迫って来るくだりは、チームの「彼が戻ってきたらどんなにいいか」という気持ちを表しているようで、思わず胸が締め付けられる。
ポール・ウォーカーは、まだまだこれからだったのだ。
彼に与えられていたステージは、彼のスペックと実力からするとどう考えても小さく、それでも腐ることなく真摯に丁寧に仕事をこなし、海外での知名度も徐々に上がってきていた矢先の急逝で、共演者はもとより、一般の映画ファンにだって彼の死は到底受け入れられない。
ストーリーは凡庸で単純、ご都合主義の連続だがそれも序盤のアクションシーン同様、監督は自虐パロディ的なノリで製作している。
そんなお遊びがどうでもよく、いやむしろ愛おしく感じられてしまう渾身のアクション超大作。
全てのアクション映画好きにおすすめである。