【プレデター:ザ・プレイ】53点 – 映画批評 –

映画



✔ プレデターの絡むバトルシーンが秀逸。巨大熊と徒手空拳で渡り合い、アナログな武器しか持たない人間達を一方的に薙ぎ倒す様は圧巻。
✔ これまでのシリーズ作と違ったクラシックな出で立ちのプレデターもまたいい。舞台は300年前のアメリカ大陸。
✔ 華のある主人公兄妹。プレデターと互角に渡り合う兄の戦闘シーンは必見。
✔ 地味な作品だが丁寧で品のある作り。最近のシリーズ作の中ではベストな一本。


✖ 「動物対人」、「人対人」等プレデターの絡まないバトルシーンが多い。
✖ プレデターのまともな活躍シーンが描かれるのは上映時間半分程を経過してから。
✖ 女性主人公が強過ぎる。バトルシーンに説得力が無い。
✖ ポリコレを押し出し過ぎている。シリーズ作のファンからすればどうでもいい事。
✖ 原点回帰を意識したシンプルな作りだが「だからこそ良い」とはならない。只々地味でシンプルな映画。


概要

✔ 「プレデター:ザ・プレイ(2022)」は「ディズニープラス」で独占配信中のプレデターシリーズ第7作目(クロスオーバー含む)のアクション映画。女性が主人公を務めるのは「エイリアンVSプレデター(2004)」以来二度目。舞台を300年前のアメリカ大陸、プレデターの狩りの対象をネイティブ・アメリカン(それも主人公は女性)に設定する事でスケール的にインフレ気味だったシリーズの原点回帰を狙う。

時代背景が古い事からプレデターの装備がこれまでのシリーズ作とは違っており、最強の武器ショルダーキャノン(今回は手持ちキャノン)からはプラズマ弾ではなく三連式の矢が放たれる。これまでのプレデターと比べると大幅に弱体化した事になるが人間側は多くが半裸の激弱装備なので、景気良く人体を炸裂させるか痛々しく突き刺さるか以外の差は特にない。プレデターの時代背景による弱体化は他にも数点見られるが人間側の弱体化の方がそれを上回っていて、武器に関しても槍・斧・弓矢、火縄銃式の原始的な単発銃等を用いて運が良ければ馬に乗るなどして戦っており、これまで以上に一方的で豪快なプレデターの無双アクションが楽しめる。動物の骨を象った仮面は過去作とあまりに違っているが装着した際の口だけを露出したデザインは斬新でかなりいい。個人的にはかなり好きだ。


プレデター<<< ポリコレ

「ネイティブアメリカン」「女性主人公」というキーワードから連想される通り、本作も流行りのポリコレを前面に押し出した作品だ。同じくディズニープラスで限定配信されている「ミズ・マーベル(2022)」は「中東系×女性主人公」がメインテーマのポリコレ作品で、これと同じ構造の映画と言える。300年も昔の原始的な共同体の中で生まれてしまった女性は当然集落を守る、男性のサポート的な生き方以外の選択肢を与えられず、外に出て狩りをして生きる事を望む主人公「ナル」が周囲との軋轢に屈せず狩りの腕一本で自分を認めさせる為に奔走する、というのが物語の軸に据えられているが、これが「猛々しく躍動するプレデターの勇姿を拝みたい」というシリーズのファンの需要をいちいち阻害してくる。

映画の前半は過酷な環境に身を置くネイティブアメリカンの日常生活が描かれていく。映画後半に繋がる伏線や主人公が強制された生き方に抗う姿が主に描かれるパートだが、この間プレデターの活躍シーンはほぼない。主人公が生活を脅かす猛獣と戦ったり薬草を煎じたり、底なし沼にハマってアワアワやってる間にプレデターは狩場を散策して小動物を虐めて遊んでいただけだ。

「プレデター」を本作から鑑賞する人はそういまい。「プレデター」がどういう生物かは視聴している大方の人間が既に知っているし、シリーズのファンがこの映画を観るのは「プレデターが見たいから」だ。本作はシリーズの原点回帰、つまりシュワルツネッガー主演の第一作目(1987)を意識して作られていて、プレデターという生き物の特徴や習性を丁寧に描く事から始めているがこれは本当にいらない。映画の前半部分のみならず本作は全体的に丁寧に伏線を撒いて丁寧に回収する、非常に冷静でまともな作りの映画だという事は認めるが「そのシリーズに視聴者が一番求める物」を取り違えていて本末転倒だ。「ポリコレに尺を取り過ぎてプレデターの出演時間が大幅に削られている」など「プレデターシリーズ」にあってはならない事だ。



あくまでポリコレ

✔ 映画中盤以降ようやくプレデターの豪快な暴れっぷりが解禁され始めるが、この映画のプレデターによる蹂躙シーンは本当に出来がいい。時代背景が古くプラズマキャノンやレーザーディスク(手裏剣のように投げて使う武器)が無い分巨躯や膂力を生かしたアクションが多く見られ、熊と重低音を響かせながら取っ組み合うシーンや軽装備(ネイティブアメリカンはほぼ半裸)×低火力(槍・斧・弓矢・原始的な銃)な人間達をちぎっては投げするシーンは全男の子垂涎の出来だ。願わくばこういったシーンが×1.5程もあればよかったのだが。エンドロールを見ると続編の構想自体はあるようなので運良く次回作が作られる際にはそうあって貰いたい。

映画後半に入ってプレデターの活躍シーンが増えてからも前述のポリコレが度々水を差してくる。プレデターの豪快なアクションで映画に熱が入ったかと思いきやそれに感化されたかの如く主人公女子の戦闘力が大幅に跳ね上がり、ならず者の白人集団を流れるように始末していく長尺のアクションシーンが入れ込まれるが10代と見紛うようなロリータフェイスの細身女子がジョン・ウィックの如き玄人アクションを見舞う姿には何の説得力もなく、背中から撮った画で長い黒髪で長い事顔が隠れた、多分主人公女優じゃない誰かが「シュバババ」と立ち回っている姿を見ていると「これは一体何の映画で今一体何を見せられてるの」とさもしい気持ちになってくる。これこそ近年の映画で非常に顕著な、所謂「女性主人公強過ぎ問題」だ。それが何なのかピンと来ない人は「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(2020)」でも観てみるといい。




※※※※※※※※以下ネタバレを含みます※※※※※※※※





シリーズ第一作目を意識して作られている本作は物語の最終版、泥にまみれたシュワルツネッガーよろしく体温をある手段で消した主人公とプレデターとの一騎打ちになる。映画序盤から丁寧に蒔いた伏線を綺麗に回収しながらプレデターを追い詰めていく展開は痛快とまではいかなくても「よく頑張って考えたじゃないか、偉い偉い」と言ってやりたくなる程にはよく出来ているが、主人公女子が何倍もの筋肉を纏ったシュワルツネッガーよりプレデターと距離を詰めて殴り合いに行き、圧倒していく展開にはさすがに笑ってしまう。一作目は筋骨隆々のプロ軍人が泥を神経質に目のきわきわまで塗った上でとにかく距離を詰められぬようコソコソと逃げ回る事で「捕まったら終わり」の緊張感が保たれていた訳だが今回は「プレデターなんか弱くね?」となる最終決戦だ。止めは一作目と同じく「来い!来てみろこの野郎!」と煽って罠にハメる事で刺しているが多分犬とタッグを組んで持久戦に持ち込めばこのプレデターは普通に倒せていただろう。同じ部族の男衆が複数人でかかっても無理、銃や罠を用いた白人の大集団が束になっても無理、巨大熊ですら素手で打ち倒されているのに近代映画の女子というのは本当に強い。


まとめ

✔ 「プレデター:ザ・プレイ」はここ10年程で一番良く出来たプレデター映画だがポリコレを意識する余りプレデターの醍醐味が大幅に阻害されてしまった少しだけ残念な作品だ。「マイノリティーの女性が主人公な変わり種のプレデター映画」ではなく「ポリコレ映画にプレデターが出ていて見事にダシにされている」という前提の下視聴する事をお勧めしたい。最近のポリコレ映画のご多分に漏れず「女性賛美」ではなく「女性おだて」と呼ぶのが相応しい類の映画なので苦手な人は要注意だ。

主人公女性「ナル」にまつわる難点を散々挙げてきたが実際私はこのナルの事が結構気に入っていて、女性として相当タイプだ。彼女は最近売れ始めた20代中盤のマイナーな女優で、最近だとリーアムニーソン主演の映画「アイスロード(2021)」のヒロインを務めたのが目立った仕事だが、自立していて勝気な、少々荒っぽいこちらの役より今回の素朴で地味な出で立ちの方が素材の良さが際立っていて非常にいい。やはり女性は飾り立てない素の状態が一番だ、とか言うと誰かに怒られそうなので今回はこの辺りで終わりにしたい。


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